海へ
学校帰り。今日から夏休み。
急に海に行くことになった。
着いて荷物を投げ捨てながら砂浜を走る。
叫びながら走って飛び込む。
波に足をすくわれながらも、思いっきり振り返って笑う。
「1回濡れちゃえば何も怖くないから!!」
今を全力で生きる。
今を振り返って、尊さを感じるのが青春なのだ。
裏返し
あの人は勉強熱心だけど少し抜けてて、そんなところが可愛くって。
運動は苦手だけど、飛んできたものから私を守って怪我したりしてた。
あの人は優しくって、面白かった。
だけど定期テストの時しか隣になれなかったし、
何を話せばいいかわからなくて、その時しか上手く話せなかった。
難しかった問題とか、苦手な教科の話、自信のある教科の話。
テストあるあるを話して、テストないないをつくった。
特に、裏を解き忘れて散々な結果だった話は、
リアクションが大袈裟で面白かった。
その時にはもう、あの人を好きになっていた。
毎日が楽しくって、学校に行くのが楽しみで。
勉強会に誘ったり、映画を見に行ったり。
この人と一緒にいたいって、思っていた。
そしてついに、告白をしたのだけれど、砕けてしまった。
それからは気まずくて、話せてない。
今日はテストの日だった。
でもやっぱり話せなかったし、諦めてもしまった。
なぜなら、印刷ミスのせいでであるはずだった裏面が、
真っ白だったからだ。
私は静かにペンを置いて、突っ伏した。
鳥のように
私も鳥のように空が飛べたらいいのに
軽く、美しく羽ばたいて、空から見下ろして、それから……
それからどうしよう
空をとべても私は私なのだ
何も無い私のままなのだ
さよならを言う前に
電車に乗って、行ってしまった。
あなたを抱き締めた残滓が上半身を侵食する。
目が潤う。
こんなことなら
泣いてしまえばよかった
言ってしまえばよかった
寂しい。行かないでって。
涙を飲み、口を噤んだ。
何とか出た一言は
「がんばってね」
どうかこの言葉が、呪いになりませんように。
空模様
空はあおい。雲も少しあって、この後は曇予報らしい。
空が何故青いのか、小さい時よく考えていた。
空は本当は白だけど、宇宙の色で青に見えるんだとか、本当は宇宙なんてなくて青い屋根があるんだとか。
まぁ、中学生にもなるとちゃんと現象として認識し始めるんだけど。
なんだったかなぁ。
そこから高校に上がって、大学に行って、就職して、なんでもない日々を送っていた。
何かあったかと言われれば、職場の上司のパワハラがすごくて、俺の事を異様に嫌ってて、仕事を押付けられて、タイムカードは勝手に切られるから、サビ残は当たり前で。
同僚は飲みに行っていたが自分だけ行けなかったから、どんどん差が生まれていって、とうとう昨日仕事を辞めた。
ありとあらゆることから逃げ出したかった。最低限の荷物をキャリーケース1つに詰め込んで、家を飛び出した。行くあてもなかったから、地元に帰ったけど、もう実家もなかったから、よく居た落ち着く公園に行って、キャリーケースの上に座って、空を眺めている。完全に空が雲で覆われてしまった。
色々思い出していたけど、なんでもない日々ではなかったなぁ。
中学の時は好きなやつに好きバレして散々いじられたし。
高校の時は文化祭の準備に参加しないのに文句ばっか言ってる奴がいてクラスのヤツらで喧嘩になった。段ボール泥棒とか画用紙泥棒もいたなぁ。あの時確か、話の通じない女子が多すぎて周りの男友達がこぞって女嫌いになってたっけ。
大学なんて講義は一人で受けてたし、何度かイケイケの奴らに絡まれてめんどくさかったなぁ。
あはは、懐かしい。何気に中学時代が一番、運動能力も成績も高かったなぁ。全盛期そこだったか。
ああそうだ、思い出した。レイリー散乱だ。
赤い光は波の幅が広いから粒子にに当たんないけど、青い光は狭いから粒子にあたって反射するから青く見えるーみたいな。
教科書の発展内容だったっけな。
空も俺も似たようなもんか。物事にぶつかって、すぐ曲がって、またぶつかって、またすぐ曲がってたな。
そろそろ、あおい自分に別れを告げなきゃな。散々曲がってきたんだ。情熱的な赤さで、まっすぐ前に進んだって、撥は当たらないだろう。
立ち上がって、キャリーケースを持った。
「ハロワ、行くか。あと引越しもしよ。」
雲が晴れて、夕焼けが見えていた。