鳥のように
私も鳥のように空が飛べたらいいのに
軽く、美しく羽ばたいて、空から見下ろして、それから……
それからどうしよう
空をとべても私は私なのだ
何も無い私のままなのだ
さよならを言う前に
電車に乗って、行ってしまった。
あなたを抱き締めた残滓が上半身を侵食する。
目が潤う。
こんなことなら
泣いてしまえばよかった
言ってしまえばよかった
寂しい。行かないでって。
涙を飲み、口を噤んだ。
何とか出た一言は
「がんばってね」
どうかこの言葉が、呪いになりませんように。
空模様
空はあおい。雲も少しあって、この後は曇予報らしい。
空が何故青いのか、小さい時よく考えていた。
空は本当は白だけど、宇宙の色で青に見えるんだとか、本当は宇宙なんてなくて青い屋根があるんだとか。
まぁ、中学生にもなるとちゃんと現象として認識し始めるんだけど。
なんだったかなぁ。
そこから高校に上がって、大学に行って、就職して、なんでもない日々を送っていた。
何かあったかと言われれば、職場の上司のパワハラがすごくて、俺の事を異様に嫌ってて、仕事を押付けられて、タイムカードは勝手に切られるから、サビ残は当たり前で。
同僚は飲みに行っていたが自分だけ行けなかったから、どんどん差が生まれていって、とうとう昨日仕事を辞めた。
ありとあらゆることから逃げ出したかった。最低限の荷物をキャリーケース1つに詰め込んで、家を飛び出した。行くあてもなかったから、地元に帰ったけど、もう実家もなかったから、よく居た落ち着く公園に行って、キャリーケースの上に座って、空を眺めている。完全に空が雲で覆われてしまった。
色々思い出していたけど、なんでもない日々ではなかったなぁ。
中学の時は好きなやつに好きバレして散々いじられたし。
高校の時は文化祭の準備に参加しないのに文句ばっか言ってる奴がいてクラスのヤツらで喧嘩になった。段ボール泥棒とか画用紙泥棒もいたなぁ。あの時確か、話の通じない女子が多すぎて周りの男友達がこぞって女嫌いになってたっけ。
大学なんて講義は一人で受けてたし、何度かイケイケの奴らに絡まれてめんどくさかったなぁ。
あはは、懐かしい。何気に中学時代が一番、運動能力も成績も高かったなぁ。全盛期そこだったか。
ああそうだ、思い出した。レイリー散乱だ。
赤い光は波の幅が広いから粒子にに当たんないけど、青い光は狭いから粒子にあたって反射するから青く見えるーみたいな。
教科書の発展内容だったっけな。
空も俺も似たようなもんか。物事にぶつかって、すぐ曲がって、またぶつかって、またすぐ曲がってたな。
そろそろ、あおい自分に別れを告げなきゃな。散々曲がってきたんだ。情熱的な赤さで、まっすぐ前に進んだって、撥は当たらないだろう。
立ち上がって、キャリーケースを持った。
「ハロワ、行くか。あと引越しもしよ。」
雲が晴れて、夕焼けが見えていた。
鏡
殴る
こんなのは俺じゃない
映すな
やめろ
お前なんか知らない
みたくもない
でていけ
何度も殴る
真実を語る鏡は嫌いだ
頼むから俺を見せないでくれ
折角作り上げてきたんだ
鏡が砕けた
手の滴りより自分が死んだ快感に消される
気持ちがいい
いつまでも捨てられないもの
彼が羨ましかった。
雨に打たれながら、下駄箱前で歌って踊る彼が。
一度濡れれば、どれだけ濡れても同じだ。
そう体で表現していた。
周りの人から「馬鹿だな」「恥ずかしくないのかな」なんて言われてはいるが、誰も彼も表情は明るい。
暗い雲のしたで、彼はいちばん眩しかった。
私は知っている。
恥を恐れて何も出来ない人は攻撃的になるのだと。
馬鹿だ!恥ずかしいやつだ!と笑うことを。
恥を捨てろ。恥を捨てろ。
そう自分に言い聞かせても、やっぱり恥ずかしい。
誰もが捨てれないものを、彼は一番に捨てた。
そうして彼は、誰よりも楽しそうに生きていた。