花とコトリ

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12/29/2025, 9:05:10 AM

どこへも行かない旅

使い慣れた一眼レフを首から下げ、クロを連れて河原へ向かう。
「旅」といっても、いつもの散歩道の延長。
けれど、レンズを覗くたびに世界は新しく書き換えられていく。

光の粒子が、クロの黒い毛並みに溶けていく。
シャッターを切る瞬間、私は私自身から少しだけ自由になれる気がする。
遠くへ行くことだけが旅ではない。
自分の心の、いちばん静かな場所へ降りていくこと。
それを、銀色の光が教えてくれる。

足元でクロが小さくあくびをした。
現像を待つ時間のように、答えを急がない。
私の心の旅路は、まだ始まったばかりだ。

12/28/2025, 3:01:59 AM

凍てつく鏡

朝の冷気に、庭のたらいの水がぴんと張りつめていた。
それは真っ白に澄んだ「凍てつく鏡」。
世界が一度リセットされたような、清々しい静寂。

お気に入りのカップにコーヒーを注ぐと、香ばしい香りが部屋いっぱいに広がる。
その温もりに誘われるように、愛犬のクロがトコトコと寄ってきた。
つやつやの黒い毛が、冬の陽だまりを反射してキラキラと輝いている。

凍りついた鏡は、冷たいだけじゃない。
これから始まる新しい光を、一番きれいに反射するために準備をしているんだ。
クロの温かい背中に触れながら、私は今日という真っ白な一日を、
どんなふうに歩こうかと考えている。

12/27/2025, 12:30:34 AM

雪明かりの夜

窓の外は、ふかふかの銀世界。
雪が街を白く塗り替えるたび、まるで新しい明日が用意されているような、そんな清々しさを感じる。

部屋を暖かくして、お気に入りの豆でコーヒーを淹れる。
窓際に腰を下ろすと、香ばしい香りに誘われたのか、
愛犬のクロがトコトコと寄ってきて、私の膝に顎を乗せた。
雪あかりに照らされたクロの瞳が、キラキラと宝石みたいに輝いている。

「明日は一緒に雪の上を歩こうか」

そう語りかけると、クロは嬉しそうに尻尾を振った。
窓の外は冷たいけれど、この部屋の中には確かな温もりと、小さな希望が満ちている。
静かで、贅沢な夜。

雪あかりが連れてきたのは、心の一番やわらかい場所を温めてくれる、優しい光だった。

12/25/2025, 1:44:07 PM

祈りを捧げて

朝の光が、カーテンの隙間からこぼれている。
少しだけ贅沢な豆を挽き、丁寧にコーヒーを淹れる。
立ちのぼる湯気の向こう側、
形のない「なにか」に、静かに名前をつけてみる。

ストーブの前で、愛犬のクロが寝息を立てている。
この黒い塊が刻む、穏やかなリズム。
それだけで、世界は十分に満たされている気がした。

祈りとは、きっと特別な言葉を並べることじゃない。
冷えた指先をカップで温めながら、
「今日が昨日と同じように過ぎますように」と、
ただ、それだけを願うこと。

コーヒーの苦みが喉を通る。
クロが薄目を開けて、しっぽを一度だけ振った。
それだけで、私の祈りはもう、届いたのだと思う。

12/24/2025, 12:57:36 PM

遠い日のぬくもり

空は透きとおるように高く、どこまでも静かだった。


冷たい風が吹くたびに、あの冬の縁側を思い出す。

十一時。
使い古したマグカップから、コーヒーの湯気が静かに立ちのぼる。
苦みの中に、少しだけ甘い記憶が混ざるような気がした。
あの頃、私の足もとにはいつも、白い毛並みの「ユキ」が丸まっていた。

午後の光。
ユキの背中に触れると、お日様の匂いがした。
言葉なんてなくても、伝わる体温があった。
「ずっと一緒だよ」
そう信じて疑わなかった、無防備な季節。

今はもう、ユキはいない。
けれど、コーヒーを一口すするたび、
手のひらに残るかすかな熱が、遠い日のぬくもりを連れてくる。
会えなくても、消えないもの。
それは、私の心の奥で今も静かに、呼吸を続けている。


きみの背中の
日だまりのようなにおい

ときどき
思い出しては
コーヒーをひとくち 飲む

それは
さよならよりも
ずっと やさしい
記憶のたしかめかた

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