左を横目で見る。
すると懐かしいものが置いてあった。
『ドラゴンクエスト8』
俺の青春が詰まったものだ。
俺は明日から社会人になる。高校で遊んでいたモノなんて大人になったら捨てないといけないとどこかで思っていた。
でも。
「やっぱ無理だろ」
結果は捨てようと一回手に持って、すぐに離す。
俺の大切な物を捨てるのは無理があった。
大した事じゃないと思うが、別に子供の時の大切な物を無理に捨てる必要はない。
大事なのは大人になりきる事じゃなくて、自分の大切な物をしっかり大切にする事だ。
これは当たり前だけど難しい気がする。
でもこのゲームを捨てるよりは何倍も楽しい。
「よぉーし。久々に冒険するぞぉ!」
明日からは別の道の冒険も始まる。
でも明日の準備も全て終えたし今日はとにかく、このゲームをしよう。
「───?」
真っ暗闇の中なのに蝉の声がよく聞こえる。
ここはどこだろうか。
僕は一体何をしていたんだろうか。
「──! ──?」
無性に熱いと感じる。
ああ、これは懐かしいと感じさせる。ジワジワくるこの熱さは去年でも嫌というほど受けてきた。
夏の暑さだ。最近地球温暖化とやらで気温が上がりっぱなしで、七月でも35度を超えるとか。
「────!」
(誰かが……僕を呼んでる?)
《《意識が無くなりかけていた僕は》》そこで誰かに呼ばれていた事に気付く。
気付いてから変化はすぐに訪れた。
まるで終わりに向かっている様な真っ暗闇が光で照らされて……
「◯◯くん、おきてー!」
「うわっ!?」
大声で起こされた。
驚きながら周りを見ると学生が沢山。それはそうだ。ここは僕が通っている学校の教室なんだから。
「やっと起きた」
大声で起こされた僕が困惑しながら周りを見ていると、女の子の顔が強引に視界に入ってくる。
オレンジの髪に整えられた可愛げのある、見覚えのある顔。
さっき僕を大声で起こしたクラスメイトの美和だった。
「あれ、何で美和が?」
「何でって、ここ学校だよ? いるに決まってるじゃん。どうしたの、何か気が動転する事でもあった? ◯◯がボケるなんて珍しいよ」
「気が動転……?」
ああ。確かにある。アイツを庇うために市民に殺されそうになったり、化け物に殺されそうになったり……。
(あれ、そんな事あったか?)
僕は一体何をやっていたんだろう?