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7/15/2024, 6:01:21 PM

「ちょっと!美鈴いじめんじゃないわよ!!」

一際大きな声が響いた。振り返ると沙良の背中が目の前にあって、 男の子達は嫌そうな顔をしていた。
「うわ、ヤマンバだ!」
「撤退撤退!!」
「逃げろー!!!」
男の子達はバタバタと教室に入っていく。
「ふん!なんとでも言いなさいバカ共!!」
「沙良.....っ」
「アイツらの言うことなんて気に止めなくていいわ!....ちょっと泣いてるの?もう、こんなことで泣かないの」

私は昔から友達がいなかった。
幼稚園の頃から人と話すのが苦手で、みんなの輪の中には入らなかった。だから、小学校でも...ましてや5年生になっても友達はずっと出来ないまま。

沙良は私と同じだった。
沙良はとっても正義感が強くて、ダメなこととか卑怯なことが許せない子。だから、そういうことをする子によく注意をした 。
それはその子達にとって都合が悪かったみたい、男の子達は沙良のことを嫌うようになったし、女の子達は助けてくれる沙良をお礼として友達にしてあげる。でも、沙良は「見えない壁がある気がする」らしい。だから沙良は女の子ともあまり関わらなかった。

私達2人共1人だった。
5年生の体育の時間、先生が「2人組作ってー!」と声を上げた。今回も多分余るだろうから先生の近くに寄っとこうと思って立ち上がろうとしたら、
「ね、一緒に組まない?」
私に声をかけてくれた子がいた、それが沙良。
そこから何かと余り物同士話すことがあって、5年生の三学期にはもう親友と呼べるくらい仲良くなっていた。
そしてそれは6年生の今も変わらない。

「もし誰かに嫌なことされたらすぐ私に言って」
帰り道、沙良が突然そう言った。
「....うん」
「アンタそう言って話したことないじゃない、ホントに分かってんの?」
「.......」
「あのねぇ...今回のこともそうだけど黙ってりゃいいってもんじゃないから。私にも男子達にも!アイツらは美鈴が黙ってるからつけ上がるのよ!一回でもいいから拒絶してみなさい!!それが無理なら私を呼ぶの!!いい?」

いたたまれなかった、言いたいことを自分が。沙良に迷惑をかけてしまう自分が。沙良がいないと何も出来ない自分が。沙良に申し訳なくて俯くしかない。

「私達は友達なんだから!!!」

驚いて顔を上げる。

「中学に上がっても、ずっとずっと友達でしょう?助けになりたいのよ!」
「中学....上がっても?」
「えぇ!なに、私はそのつもりだったけど?」






ねぇ沙良






貴方、あのときそう言ったよね







中学1年でまた同じクラスになれた沙良は、変わってしまっていた。
沙良は明るい人達の輪の中にいて、やっと同じクラスになったのに私とは目も合わせてくれなかった。ずっとずっと、始業式はその人達と話してばかり。私には興味無いみたい。

何となくこちらからも話しかけづらくて、そして5月になった。
体育祭の競技決め、私は運動が苦手なので障害物競走にしよう、と思いながらクラス全員の出場競技を確認する体育委員の沙良を見つめていた。すると、

「河村さんは何がいい?」

あまりに唐突過ぎて誰に言われたか分からなかったが、沙良の視線ですぐに分かった。

「っあ、私は障害物競走で」



小学校の頃の沙良なら人の悪口は許さなかった、でも今はヘラヘラ笑って毒を吐いている。

小学校の頃の沙良は宿題の問題が分からないと、沙良の家にお邪魔したらそればかりだった。でも今は私の次に頭がいい。

小学校の頃の沙良は私以外とあまり関わろうとしなかった。でも今は周りにヘラヘラした友達が沢山いる。

「河村〜?誰....え同じクラス?嘘だろおい!笑」

小学校の頃の沙良は私が悪く言われてたらすぐ助けに来てくれた。でも今は

「最近駅前にクレープ屋さん出来たの知らない?.....そうそう!そこ行ってみたくてさー」

聞こえないふり。



優しくて可愛くて頭がよくて運動神経も良い。
きっと、みんなの憧れる優等生。

あんなのが?

私にとっては小学生の頃の沙良の方がずっとずっと憧れだったよ。
正義感が強いところが好きだった。別に問題が分からないなら私が教えるよ、沙良はポテンシャルがあったからきっとすぐ覚えられた。周りの意見を気にしないところが好きだった。誰に嫌われても、どう言われても動じないところが好きだった。

私のことを友達だと言って笑ってくれる沙良が大好きだった。



「河村さん、落としたよ」

「...あぁ、ありがとう美崎さん」

ねぇ沙良、私のことそんなに嫌いだった?
私より他の人の意見の方が大事になっちゃったんだね。

人ってそんなに簡単に変われるものなんだ。



なら私だってそろそろ変わらないと。

毎日毎日沙良のことを考えるのはもうおしまい。

楽しかった思い出に救いを求めるのはもうおしまい。

「気をつけてね、あれ..それなんて本?面白そ_」



「ごめんね、私今の貴女に...もう興味無いの」






ー終わりにしようー

7/14/2024, 4:55:39 PM

香月ちゃんと幼稚園で会ったとき、その時は本当になーんにも考えずに声をかけたんだったな。
彼女が他の誰より美人だから声をかけたとかそんな邪な気持ちは全くなくて、ただ、ただ純粋に貴方のその何が起ころうと変わらないような表情を崩してみたかっただけだった。
どうしたら笑ってくれるのかな、泣いちゃうくらい笑うことってあるのかな、どうしたらそうなるだろう、いっぱいいっぱい考えて貴方の手を引いて色んなところへ行ったけれど...そういえば香月ちゃんの顔は変わってなかったなぁ。

「よーく笑うようになったよねぇ」
「なんや気持ち悪い」
横目でジトッと睨まれる、そういうところだ。
私達は今高校3年生。香月ちゃんとは小中高ずっと同じ学校に通っており、家も隣同士、いわゆる幼なじみやら腐れ縁やらと呼ばれる仲だ。自慢ではないが香月ちゃんのことは他の誰より知っているつもりだ。そう、今の香月ちゃんの彼氏よりも!
「なーんにも!...なにどこ行くの」
「倉庫、道具整理行かんと」
香月ちゃんがベンチから立ち上がったので私も続く。
「えぇ...さっきも倉庫行ったよね?また行くの?」
「最終確認」
あそこ臭いから嫌なんだけどなぁ...ぶちぶち言っても香月ちゃんを怒らせるだけなので黙っておく。
屋根のあったベンチから出ると初夏の日差しが直で当たり頭が焼けそうになる。もうこれ以上汗かきたくないよぉ。
「これは帰りアイス奢って貰わないと気が済まない...」
「今日財布持ってへんもん」
「えぇ!?ポンコツ!」
倉庫に着くと香月ちゃんは真っ先に野球部の部品置き場へ向かった。手伝いたいけど変な手出しをすると怒るので私はバトミントン部の部品置き場へ向かう。でもどうやらマネージャーが先にやってくれていたらしい、綺麗に整頓されていた。仕方がないので整理整頓してますよ風に近くに座る。

香月ちゃんが初めて笑ってくれたのは小学校3年生の夏だった。体育の時間、野球に似たゲームをすることになって、私達のチームは負けたけど何か心地よくて「楽しーね」って言った。
私にとってそれは独り言に近い、ただの小言だった。私にとって意味を持たない言葉。
でも香月ちゃんはその言葉に「でしょ?」って言って笑った。
嫌ってくらい暑かったのに、涼しい風が急にふわって吹いた気がして、しばらく呆然とした。

そこから香月ちゃんが野球のクラブチームに入っていたことを知った。
幼稚園からの付き合いなのに教えてくれなかったことにちょっとだけ怒ったが、新しい事を知れたことがやっぱり嬉しかった。
クラブチームに入るきっかけを聞くと、お兄ちゃんが好きだったからだそうで、2人でよく遊んでいると言った。近所なので勿論香月ちゃんのお兄さんは知ってるし見たことあるが、高校生なのに細身だし髪の毛生えてるし、全く野球なんてしなさそうだがすごく上手らしい。

今日はそんな香月ちゃんのお兄さんが退院する日だ。

「帰ろ、明莉乃」
「...待ちくたびれた」
小5の頃初めて香月ちゃんの家にお泊まりすることになったとき、お兄さんと初めて話した。
とても優しい人で、でも物腰柔らかで何かおっとりしてて、不思議な雰囲気の人だった。
「今日伊織と葉月は?先帰ったん?」
「んー、私が先帰ってって言った」
「はぁ?なんで、一緒に帰りたかったわぁ」
「2人共帰宅部なの忘れてますー?」
お兄さんが倒れたのは中3のとき、私と香月ちゃんの受験勉強が終わってすぐだった。
「こんな真夏に長時間待たされちゃあの2人枯れるからね」
「室内で待たせれば」
「嫌だよ不公平じゃん私が香月ちゃんと帰るために何Lの汗を無駄にしたと思ってんの!」
それから私達が高3になるまでずっと入院してて、一緒に沢山お見舞いに行った。そのときも、香月ちゃんの表情は変わらなかった。

「...ごめん、私ちょっとコンビニよるから」
言うつもりじゃなかった、なかったのに、不意に口をついて出てしまった。
「なに、私も一緒に」
「いーよ、待たせるの悪いし先帰ってて?」
香月ちゃんのことだからきっと気をつかってくれる、でも心配させるだろうなぁ
「....わかった、また明日」
ほらやっぱり。
「うん!また明日ー!」
できるだけ駆け足でコンビニの中へ入る。自動ドアが開いた瞬間別世界に入ったかのような冷たい風が吹いて思わず身震いした。

私は香月ちゃんの表情が変わるのが見たかった、近づいた理由は本当にそれだけ。
でも、香月ちゃんはお兄さんが入院しても少しだって苦しそうな顔をしなかった。辛いはずなのに、苦しいはずなのに全く顔に出さなかった。
彼氏が出来て、いおりんと葉月ちゃんみたいないい子の友達が出来て、沢山笑うようになったし昔よりもずっと香月ちゃんにとって楽しい学校生活なんじゃないかと思う。
でもそう思う度に、お兄さんのことが浮かぶ。
本当は、本当はどう思ってるんだろうって、私には何が出来るかなって。大事なことだけ顔に出さないんだから本当に困る。

コンビニに入ってしまった手前、手ぶらでは帰れないと思い、簡単なアイスだけ買ってコンビニを出た。
当然食べる気にもなれないのでバックに入れて、そのまま家へ向かう。

鍵を探しながらエレベーターの中で考える。香月ちゃんはどうしたら泣くんだろうと、どうしたら自分の気持ちを吐露できるようになるのだろう。
エレベーターの扉が開く、まぁ考えても仕方ない、近所だしお兄さんと会うことがあればまた挨拶を......

「っぐす、ほんとに、ほんとによかった。わたしっ..........」

私は咄嗟に非常口に逃げた、なんというか見ちゃいけない気がして....いや見た、見たんだけど。
あれはどう見ても香月ちゃんだった、お兄さんに抱きついてワンワン泣いていた。

「おにいちゃんがたおれちゃって....わたしどうしようかと....退院できてよかった....」
「ごめん、心配かけてごめんね香月、ありがとう」

そっか、香月ちゃんって泣くんだ

なんだ、そっか。

後で香月ちゃん家にお邪魔して手土産でも持っていこう、それで「お兄さん退院おめでとうございます!」って言って渡すんだ。
それだけが私の出来ることだと思うから。

どんな顔で受け取ってくれるんだろう、心の底から笑ってくれるかなぁ

そんなことを考えながら私は階段を下った。



ー手を取り合ってー