「ちょっと!美鈴いじめんじゃないわよ!!」
一際大きな声が響いた。振り返ると沙良の背中が目の前にあって、 男の子達は嫌そうな顔をしていた。
「うわ、ヤマンバだ!」
「撤退撤退!!」
「逃げろー!!!」
男の子達はバタバタと教室に入っていく。
「ふん!なんとでも言いなさいバカ共!!」
「沙良.....っ」
「アイツらの言うことなんて気に止めなくていいわ!....ちょっと泣いてるの?もう、こんなことで泣かないの」
私は昔から友達がいなかった。
幼稚園の頃から人と話すのが苦手で、みんなの輪の中には入らなかった。だから、小学校でも...ましてや5年生になっても友達はずっと出来ないまま。
沙良は私と同じだった。
沙良はとっても正義感が強くて、ダメなこととか卑怯なことが許せない子。だから、そういうことをする子によく注意をした 。
それはその子達にとって都合が悪かったみたい、男の子達は沙良のことを嫌うようになったし、女の子達は助けてくれる沙良をお礼として友達にしてあげる。でも、沙良は「見えない壁がある気がする」らしい。だから沙良は女の子ともあまり関わらなかった。
私達2人共1人だった。
5年生の体育の時間、先生が「2人組作ってー!」と声を上げた。今回も多分余るだろうから先生の近くに寄っとこうと思って立ち上がろうとしたら、
「ね、一緒に組まない?」
私に声をかけてくれた子がいた、それが沙良。
そこから何かと余り物同士話すことがあって、5年生の三学期にはもう親友と呼べるくらい仲良くなっていた。
そしてそれは6年生の今も変わらない。
「もし誰かに嫌なことされたらすぐ私に言って」
帰り道、沙良が突然そう言った。
「....うん」
「アンタそう言って話したことないじゃない、ホントに分かってんの?」
「.......」
「あのねぇ...今回のこともそうだけど黙ってりゃいいってもんじゃないから。私にも男子達にも!アイツらは美鈴が黙ってるからつけ上がるのよ!一回でもいいから拒絶してみなさい!!それが無理なら私を呼ぶの!!いい?」
いたたまれなかった、言いたいことを自分が。沙良に迷惑をかけてしまう自分が。沙良がいないと何も出来ない自分が。沙良に申し訳なくて俯くしかない。
「私達は友達なんだから!!!」
驚いて顔を上げる。
「中学に上がっても、ずっとずっと友達でしょう?助けになりたいのよ!」
「中学....上がっても?」
「えぇ!なに、私はそのつもりだったけど?」
ねぇ沙良
貴方、あのときそう言ったよね
中学1年でまた同じクラスになれた沙良は、変わってしまっていた。
沙良は明るい人達の輪の中にいて、やっと同じクラスになったのに私とは目も合わせてくれなかった。ずっとずっと、始業式はその人達と話してばかり。私には興味無いみたい。
何となくこちらからも話しかけづらくて、そして5月になった。
体育祭の競技決め、私は運動が苦手なので障害物競走にしよう、と思いながらクラス全員の出場競技を確認する体育委員の沙良を見つめていた。すると、
「河村さんは何がいい?」
あまりに唐突過ぎて誰に言われたか分からなかったが、沙良の視線ですぐに分かった。
「っあ、私は障害物競走で」
小学校の頃の沙良なら人の悪口は許さなかった、でも今はヘラヘラ笑って毒を吐いている。
小学校の頃の沙良は宿題の問題が分からないと、沙良の家にお邪魔したらそればかりだった。でも今は私の次に頭がいい。
小学校の頃の沙良は私以外とあまり関わろうとしなかった。でも今は周りにヘラヘラした友達が沢山いる。
「河村〜?誰....え同じクラス?嘘だろおい!笑」
小学校の頃の沙良は私が悪く言われてたらすぐ助けに来てくれた。でも今は
「最近駅前にクレープ屋さん出来たの知らない?.....そうそう!そこ行ってみたくてさー」
聞こえないふり。
優しくて可愛くて頭がよくて運動神経も良い。
きっと、みんなの憧れる優等生。
あんなのが?
私にとっては小学生の頃の沙良の方がずっとずっと憧れだったよ。
正義感が強いところが好きだった。別に問題が分からないなら私が教えるよ、沙良はポテンシャルがあったからきっとすぐ覚えられた。周りの意見を気にしないところが好きだった。誰に嫌われても、どう言われても動じないところが好きだった。
私のことを友達だと言って笑ってくれる沙良が大好きだった。
「河村さん、落としたよ」
「...あぁ、ありがとう美崎さん」
ねぇ沙良、私のことそんなに嫌いだった?
私より他の人の意見の方が大事になっちゃったんだね。
人ってそんなに簡単に変われるものなんだ。
なら私だってそろそろ変わらないと。
毎日毎日沙良のことを考えるのはもうおしまい。
楽しかった思い出に救いを求めるのはもうおしまい。
「気をつけてね、あれ..それなんて本?面白そ_」
「ごめんね、私今の貴女に...もう興味無いの」
ー終わりにしようー
7/15/2024, 6:01:21 PM