「時間よ止まれ」
今のクラスは正直言って最高だ。テストの平均点は学年でどれも一位をとる。合唱コンクールではその学年で金賞、オマケに指揮者賞と伴奏者賞を全部奪ってきたのだ。
それは担任の熱意のお陰でもある。担任があの時生徒全員に強く叱りつけてなければ金賞も取れなかっただろう。
……そんなクラスもそろそろ終わりに近付いてきた。平均点一位を取って担任と一緒にパーティーをした時間も、みんなで金賞を取って喜びあった事も……全てもう味わえなくなってしまうのだ。
次の学年の時も同じメンバーで……いや、この時間が止まってしまえばいいのに。
____時間よ止まれ……ってね
「君の声がする」
人というのは、相手の顔が思い出せなくなるよりも先に声を忘れてしまうらしい。
転校してしまって会えなくなった友達にとあるアプリのアカウントを教えてもらった。
その子は滅多に投稿しないが、投稿しているのを見るとあっちでも仲良く出来てるんだと安心するのと同時に嫉妬心が着いてくる。
投稿されている物をみると、ノイズやフィルターがかかったようなその子の声が聞こえるような気がした。長年会っていないから、私は声を忘れてきているのだろう。
昔遊んだ記憶からその子の声を思い出しているだけで今は違う声質なのかもしれない。
____久しぶりに遊びたいな
「ありがとう」
クラスメイトになにか軽くお礼を言う時はありがとうではなく、てんきゅーと言っている。
咄嗟にそれが口に出てしまうというのもあるが、親しみやすさが一番である。
でも、私はてんきゅーでは済まされないほどの事を友達やクラスメイトにしてもらっている。
だからこそ、ありがとうと言ってやりたい。
「そっと伝えたい」
休み時間、私は一人で絵を描いていた。
休み時間なのだから人の話が聞こえてくる。これをうるさいと捉える人もいれば、作業用BGMとしている人もいる。私は後者の方だ。
「____ねぇ、【好きな作品の名前】って知ってる? 最近ハマったんだけどさぁ……」
その作品の名前を耳にしたとたん、絵を描く手が止まった。……まさか、同じ教室の中に知っている人が居たとは……ぜひ、語り合いたい。
が、私にはそんな勇気も何も無い。突然、「それ、知ってる!」と声をかけても変な目で見られるだけだろう。
私の席の後ろで好きな作品、推しの話をしていてウズウズしながらも鐘がなるまで話を聞いていた。
あぁ、私にそっっと伝える事が出来る力があれば……
結局、絵は全く進んでいなかった。
「未来の記憶」
とある授業中の事だった。
「__いや、これは絶対に違うと思います!」
「____はぁ……?」
私は眠くてほぼ話を聞いていなかったが、喧嘩の様な状況になっている事だけは理解出来た。
……ん? この展開、見覚えあるな。確か……言い合いに負けるんだよね
「__わ、分かったから、これで良いよ」
ほら、やっぱり。
時々、夢で見た事もないのに何故かワンシーンだけ謎に既視感がうまれる事がある。
デジャブ……と言うのだろうか。私はこの現象を未来の記憶と呼んでいる。
……結局、なんの話し合いだったんだろう。