「秘密の場所」
秘密の場所と言っても全然秘密でもなんでもなかった。
簡単に言えば家と家の間の屋根のある通路が秘密の場所だった。
雨が降ると、その屋根から滝の様に雨水が落ちてくる。通路は少しだけ凹んでいるから雨水が少し流れて川のように……と妄想していたあの頃を思い出す。(滝の話は本当だ。)
そこでごっこ遊びをよくしていた。その友達は転校して居ないけど、元気にしているのだろうか。
……また、この場所で遊べたらな。
「約束」
「……大人になったら、旅行に連れて行ってくれるらしいね!」
と、母は父方の祖父に言った。旅行に連れて行くのは話の内容から察して私の事だろう。
英検に合格して、賞状を見せた時に母はよく分かっていない祖父に付け加えるように言ったのだった。
……と、約束に近い話をして数ヶ月、祖父は亡くなってしまった。
亡くなっても孫の事は大切にする彼の事だから、この約束を覚えているだろう。私はそう信じている。
「誰かしら?」
洗面台の鏡の私と面と向かって歯磨きをしている。鏡越しの見慣れた背景を見ながら何も考える事もなく、ただ歯磨きをしていた。
その時、鏡越しで黒い何かが動いている気がした。天井につきそうな程高く、黒いだけの何かが。
驚いて後ろを見るとそこには干されている洗濯物がゆらゆら揺れているだけだった。
____私を驚かそうとしてくるのは一体、誰かしら?
心の中で問いかける。目についたのは靴下だった。黒い靴下がさっきの何かと同じ場所に干されている。これが揺れ出して物体が動いているように見えただけだったのだ。
「芽吹きの時」
才能は突然芽吹いてくる。
昔にどこかにまいた種はいくら水を与えても、栄養を与えても生えてこない。
が、こういうのは突然芽が吹き出すのだ。この芽はいつまいた種なんだろう……ちゃんと水をやらないとな……
なんて思いながら今日もその芽と向き合っている。
____才能の種よ、今、芽吹きの時が来ましたよ。
「あの日の温もり」
私が疲れて泣いてしまった時、貴方は優しく抱きしめて落ち着かせてくれた。
体育の授業中でも試合から抜けて慰めてくれた。今思うと本当に申し訳ない。
確か、「私も同じ事あるからさ……」と言っていた気がする。
あの日の温もりを私は忘れたくない。