太陽みたいに眩しい笑顔の子。
私と同じ性なのに格好良い雰囲気を持ち、そして会うと抱き締めてくれる。
今日だって私から手を広げたら優しく抱擁してくれたし、額に口付けまで落としてくれた。
私には勿体無い女の子。
名前も顔も知らないけれど、中学生の時に出会った初恋の人に似ているのだと思う。
彼女も眩しい笑顔とその性格でいつも私を照らしてくれていた。運動神経も抜群で、お勉強も出来て。私とは真反対のポジティブさを持った、そんな女の子。
記憶とは嫌味にも儚く消えてしまうもので、中学生だったその子の名前すらも覚えていない。人が一番に忘れてしまうのは声だと言うが、私は今でもはっきりと覚えている。またあの人懐っこい顔で私の名前を呼んでくれたら良いのに。
……それを叶えてくれたのが夢だった。もう、自分でもわかっていたんだ。あの瞬間は夢で、そんな都合の良いことは存在しなくって。でも、私の名前を呼びながら額に口付けを落としてくれた記憶は鮮明に残っている。大好きよ、大好き。
祖父が死んだ。
つい三日前の事だ。
最期は「腹が減った」なんて事を話していたらしい。祖父はどこまで行っても祖父なのだ。葬式を済ませ祖父の遺体を火葬する。祖父のことを何やかんや愛していた祖母だったが、認知症が少し入っていた所為かすんなりと火葬のボタンを押していた。合唱、礼拝。その繰り返し。祖父が完全に骨と灰になったのは凡そ二時間後の事だった。
「納骨の御時間となりましたので会場までお願いいたします。」
淡々と告げられたあられもない姿の祖父との対面は、なんとなく、呆気無くて。誰も実感が無いような、そんな感じだった。納骨室まで歩く。焼けたばかりなのか空気そのものが熱い。そして、形容し難いにおい。鼻腔をじくじくと蝕むようなそのにおいは私の頭をあっという間に痛くさせた。太い箸で骨を取る。医療系の専門学校へと通う従姉妹が
「これ大腿骨っちば!」
なんて話していた。先程までは可愛らしい顔が台無しになる程涙を溢れさせていたというのに。納骨室、あまりのにおいに耐え切れず一言ことわってから室外へと出る。線香の匂い、赤ん坊の匂い。母親の乳しか飲めない赤子を連れていた従姉妹の一人が何やら冷たい視線を向けられていたな。かく言う従姉妹はガンを飛ばしてやったなんて軽快に笑っていた。田舎の人間は強い、つくづくそう思う。車で祖母の家へと帰る。うねる坂道と頭痛のダブルコンボを食らっていた私は勿論酔い、家に着いてからは部屋にも入れず目の前にある公園の椅子にただ一人座り、こうして小説を書いている。ああ、今日も寒い。ひゅるりと吹く木枯らしは私のことを嘲笑っているようで少し苛立ったが、執筆すればその気も消え失せた。