るね

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11/6/2024, 2:01:52 PM

【柔らかい雨】


柔らかい雨なら濡れるのも悪くない。
温かい雨なら更に良い。
寒くない季節が良い。

荷物はしっかりとガードして、あえて傘を持たずにゆっくり歩きたい。
何も変なことはしていないとばかりに堂々と。

すれ違った人が戸惑って、
『あれ? 雨やんだのかな?』なんて
傘を傾けてみたりするのはちょっと楽しい。


11/6/2024, 8:20:22 AM

【一筋の光】


今は書けそうにないのですが、一応キープしておきます

11/4/2024, 3:17:10 PM

長めです。1,000字程度。
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【哀愁を誘う】


ただでさえ小さな彼が背を丸めて泣く姿はあまりにも哀れだった。
「帰りたい……もういやだ……」
か細い声。
どうにかしてやりたかった。
でも私にはどうしようもなかった。

彼は勇者だった。
異世界から来て魔王を倒した。
剣を持って戦えば、小柄ながらもの凄く強い。
彼が魔王を倒したのは、この世界のためなんかじゃない。

ただただ、帰りたかったからだった。



彼を呼び出した国の王も魔術士も。
本当は帰る手段がないことを隠していた。

小さな彼を利用するために。
まだ幼ささえある少年を戦わせるために。
全て成し遂げれば帰れるかのように思わせた。



「帰りたい……白いご飯が食べたい」

白いご飯、がどんなものか、私は知らない。
でも、叶えてあげたかった。
少しずつ彼から情報を聞き出して、コメという穀物を使った主食だと知った。

コメを探した。
珍しい穀物があると聞けば取り寄せた。
使えるものは権力も金も人脈も使った。
酔狂だ我儘だと言われながら手を尽くした。

どうにかそれらしいものを見つけた。
少し違うと言われたから、品種改良にだって着手した。
幸い私は植物に干渉する魔法が得意だ。

コメの次はショーユ。
これは異国で似たものを手に入れた。
同じ国でミソを発見した時には、彼は喜んでぼろぼろ泣いた。
それはいつかの、哀愁を誘う泣き方とは違う涙だった。

コンブ、ワカメ、ノリを探した。
海藻を食べるという習慣自体に驚かされた。
カンテンが新たな名産品になった。
生魚を食べるというので心配した。

ニボシも作った。
ミソシルの完成度が上がったという。

気付けば、彼と私は世界中を旅していた。
いつからか彼は帰りたいと言わなくなった。

彼はいくらか背が伸びて、それでもやっぱり小柄だった。
小さな彼が実は年上だと知って、驚いた。
相変わらずもの凄く強い。



とある料理人と知り合って、勇者の故郷の料理を再現して振る舞う店を作った。
評判は上々。
食べたら強くなれるなんて噂が飛び交った。

ある日、私は恐る恐る聞いてみた。
「まだ、帰りたいですか?」
彼はもう泣かずに穏やかに笑った。
「どうかな……大事なものができたから」



彼から指輪をもらった。
私の左手の薬指に着けてくれた。
彼の故郷の風習だという。
どういう意味かと尋ねたら、彼は真っ赤になって恥ずかしがった。

「俺の帰る場所は、君になったんだ」



11/3/2024, 10:12:46 AM

【鏡の中の自分】


鏡の中の自分をじっと見張ってみる。

何かおかしなことをしないかと。
勝手に片手を上げるとか、両目を閉じるとか。

実際にはそんなこと起こらないわけだけど。
それでも。
ちょっとした妄想が日々を楽しくしてくれるって、私は思っているから。



11/2/2024, 11:46:37 AM

長いです。1,400字ほど。
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【眠りにつく前に】


毎晩、眠りにつく前に、今日こそは夢を見ませんようにと願う。まあ、なかなか叶わない願いなんだけど。

何年も前から見続けている奇妙な夢。
ひとりの少年が旅人に拾われて、一緒に旅をしながら、魔法を覚え、剣の扱いを身に着け、立派な戦士になっていく夢。

少年の顔は、昔、川で行方不明になった兄にそっくりで。名前まで同じで。
もしかしたらお兄ちゃんが生きていて、異世界で旅をしているのかもと思ってしまう。

だけどそんな話、両親に聞かせても悲しませるだけだ。
私だって、夢で姿が見られるだけで、こちらから話しかけられるわけじゃない。
そもそも私の妄想なのかもしれないし。

見ていても何もできない。
夢の中の少年が怪我をしても。
一緒にいたはずの旅人が、いつの間にかいなくなっていても。

だったら夢なんか見ない方がいい。
そう思うのに、毎晩のように、お兄ちゃんそっくりの少年が姿を現した。

子供っぽかった少年が、青年になって。すごく強くなって。友達ができたり、その友達と離れたり、女の子と良い雰囲気になったり……
そんな姿を私に見せられても困ってしまう。

お兄ちゃんがいなくなってから、両親は私に優しくない。
特にお母さんは、私よりお兄ちゃんがここにいればと思っているのがわかってしまった。

進路について、私が進みたい道を反対されて。両親と言い争いになって。とうとう言ってしまったのだ。
「私はお兄ちゃんじゃない」
「お兄ちゃんの代わりにしようとしないで」
「私がいなくなれば良かったんでしょう!?」

私は家を飛び出して、気付いたら河原にいた。お兄ちゃんがいなくなった、あの川の傍らに。
水の中で何かが光った。
呼ばれている。
そう確信して、私は川に入った。
慎重に、一歩、二歩。三歩目は大して深くないはずの川底に足がつかなかった。




溺れそうになった私が水面から顔を出したら、目の前にあったのは、見知らぬ街の広場。
私はそこの噴水でずぶ濡れになっていた。

石造りの背の低い家が並び、ビルなんて見えないし道は石畳。
何事かとこちらを振り返った人の服装は現代日本のものじゃなかった。
荷物を運ぶロバまでいた。
夕方だったはずが、昼になっている。

「アンタ、大丈夫か? 一体どこから……」
心配そうに話しかけてきた黒髪の青年。
その姿はずっと夢で見守ってきたもので。
「……お兄ちゃん」
青年の焦げ茶の目がまん丸になった。

「まさか……あずさ、か……?」
「……うん」
「なんで……」
なんでと言われて、少し言葉に詰まった。
日本にいるのが、あの両親と暮らすのが、辛くなったからだとは言いたくなくて。

私は無理して笑ってみせた。
「追いかけて来ちゃった」
「お前……もう10年近く経つんだぞ?」
「そうだね。今更、だけど」

お兄ちゃんは私を魔法で乾かし、宿に連れて行ってくれた。そしてすごく困った顔で「これからどうする?」と尋ねてきた。

「俺は冒険者で、旅をしてて、結構危ない旅だから、一緒にいるのは……」
「知ってる。ずっと、夢で見てたから」

お兄ちゃんの旅の仲間が私を《鑑定》してくれて、私には魔法の才能があるとわかった。それも治癒魔法の才能だ。

私は魔法を教わりながら、お兄ちゃんと半年ほど旅をした。
そして、ある村の治療院で治癒士が足りないと聞いて、そこで暮らし始めた。

お兄ちゃんからは毎月のように手紙が届く。
年に一度くらいは会いに来てくれる。
同じ世界にいるからか、離れていても、もう夢には見なかった。
今の私は、眠りにつく前に、ただ兄の無事を祈っている。



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