雨に佇む
あぁ、もう行ってしまう。行かなきゃ、追わなきゃ。次いつ雨が降るのか分からない。
突然の君の訪問。
百合注意、前回の『雨に佇む』と繋がっている
今日は久しぶりに雨が降った。
私には、雨が降ると必ず行く場所がある。
習慣のように聞こえるかもしれないが、これは習慣とは全く違う別物。
そう、これは''呪い''だ。
私のせいで君に掛けた呪い。
そして君が私に掛けた呪い。
まるで<呪い愛>だ。
つくづくこの世界の創造者樣であるここの神樣は皮肉だと思う。
あの子の姿を神隠しの様に消す癖に、あの子と一緒に過ごした記憶は一切消さないでおいとく。
私たちに''普通''に愛し合って生活出来る同性愛は許さないのに、
呪いのような愛し合いは許すどころか強行する。
神樣は自己中心的にも程がある。
雨が降っている中、彼女が消えた場所に行き、花を添え、【あの子がどうか帰ってきますように】と、叶うはずも無い願いを神樣に祈る。
永遠の制裁なのだから、戻ってくるはずもない。だけど、祈らずには居られなかった。
今日は雨の量も多く、長い時間降っているのでもしかしたら会えるかもと思った。でも会えることが出来るのは聖霊のみ。精霊の彼女とは会えない。
家に帰り、晩ご飯と風呂と課題その他もろもろを終え、部屋でぼーっとしていると、何故か窓の外から気配を感じた。私の部屋は2階、もちろん常人が届くような高さじゃない。
不審者かもしれない、害のある生き物かもしれない。
でも、体が窓を開けろと言うことを聞かないのだ。
わけも分からないまま、私は窓を開ける。
するとそこに居たのは、あの日、あの場所、この天候で私に好きと伝えてくれた子。神隠しにあって雨の精霊になった彼女だった。
ただ1番最後に見た時と違って、水のように透けていて、触れたら今にも崩れてしまいそうなほど儚く見えた。
これも精霊になったからだろうか。
どうして、
と聞こえるかも分からないような小さく掠れた声で呟く。
すると彼女は、あの日と変わらない柔らかく優しい笑顔で
わかんない、笑
と答えた。
【雨が強かったからかもしれない】
【もしかしたら聖霊になれたのかもしれない】
きっと私も彼女も同じことを思っている、それだけで嬉しく思ってしまう私は、かなり重症。
でも、そんな分かりきった答えも否定して、今目の前の少女は今私が1番欲しい言葉を言ってくれた。
<常日頃から思っているあなたに会いたい、触れたい、話したいという気持ちがこの日の強い雨と重なって、こうやって移動してここへ来れたのかもしれない笑>
そう言って彼女は自分の手を私の手と絡ませて遊ぶ。
【もし聖霊になれたら、またこうやって来るね。】
約束だよ。と言って指切りの約束をした。
すると彼女は満足そうに笑いながら、水のように夜の闇の中へ馴染んで消えていった。
指切りの約束を交わした少女達の小指には赤い糸
薬指には彼女達にしか見えない指輪がついていました。
透明な宝石がひとつついただけの、シンプルな指輪。
でもその透明な宝石は抜けるような青から、茜色へと変化し、星空を散りばめたように煌めいたあと、虹色の光を放ち、それを繰り返し続けた。
少女達の薬指には、今でもその指輪が輝き続けている。
雨に佇む
百合注意
雨に佇む私は幽霊。
普段は空気中の水蒸気でその場に留まっているようなもの。
でも流石に雨とくれば、空気中の水蒸気の濃度も増し、あたりの水気も増すので私の存在感も強くなる。
やがて雨が長引けば長引くほど水でできた私の体は実体を持ち、他の人間と差程変わらない所まで存在感が上がった。
ただ1つ、雨の中傘のひとつもささずに佇んでいても濡れることは無いというところを除けば、人間と見間違えるだろう。
ふと、とあることを思った。
何故私は、雨の日だけ存在感が強くなるような特殊な幽霊になったのだろうか。
1人で考えていると、こちらに向かって足音が近づいてきたのでふっと顔を上げる。
そこに居たのはどこかで見覚えがある女の子だった。
彼女は私の前にしゃがみ込み、何かを置くとまた立ち上がる。
その立ち上がった瞬間、私はその子と目が合った。
彼女と目が会った瞬間弾かれたように蘇るのは過去の記憶。
それは、私が彼女に好きと伝えようとした日。この日もちょうど雨だった。
私が彼女に好きと伝えた瞬間、私の体はふっと軽くなり、それでいて重くなったような気もした。
この世界はちょっぴり他のところよりも特殊で、この世界では同性同士での恋愛はタブー。
同性愛が発覚した瞬時に、この世界の創造者樣である神樣が、禁止事項を破った者に対し、永遠の制裁を与える。
それは、好きだと言ったその日の天候の精霊となることだった。精霊になったものは、その天気の時にだけちゃんとした形を保って現れることができるが、その他の天候の時は空気も同然だ。
そうだ、私は今目の前にいる彼女に雨の日に好きと伝えたから、雨の精霊になったのだ。
とはいえいくら実体を持って現れるとは言っても精霊は精霊、人間に見えることは無い。
人間が見ることが出来るのは、精霊がひとつ上の存在になった時に授けられる【聖霊】という称号のようなものを持っているものだけなのだ。
目の前にいても触れることすら出来ない。そんな地獄だ
だから私は、雨に佇む。
私の日記帳
今日は、朝5時に目覚めた。
まだ早い時間だったし、再び寝ようにももう外も明るくなりかけているし、何より目が覚めてしまいなかなか寝付けない。
だから私は、暇つぶし代わりに長いこと動かしていなかった空白ページだらけのこの日記帳を書こうと思う。
でも今は5時。今日はまだ何が起こった訳でもないし、何が起こるかも分からない。だから、今日はこんなことがあればいいなと言う理想で書いていこうと思う。
5:30 / 2度目の眠りにつく
7:00 / 2度目の起床
7:05
| / 朝飯、着替え、その他準備等
7:30
8:00 / 課題
───────────────────────(省略)
とまぁ、こんなものだろうか。
私は(理想の)今日の日記を書き終わった。
時計を見ると丁度5:30、それと同時に眠気も襲われてきた。キリもいいし、再度眠りにつこう。
この日の最後。
振り返ってみたら今日は日記帳に書いたことがまるで書き写されたように全く同じように進んだ。
偶然かはたまた必然か。そんなこと私には知る由もない。
向かい合わせ
机の向かい合わせ、そこにいるのは机に突っ伏して眠っているここの席の常連さん。
じっと見つめていると、彼は私の視線に気づいたようでピクリと起き上がり、こちらに顔を向け、目を瞬かせる。
綺麗な青の瞳に、真っ白でスラリとした体。
その綺麗な青の瞳に映っているのは、
漆黒の毛、双眼に金色の光を宿した私。
スクリと彼が立ち上がり、私もそれに便乗して立ち上がる。
白と黒、青と黄色、真逆の色した2匹の猫。
そんな真逆とも言える2匹の飼い猫が連れ立って家に帰ってくる瞬間が、私は愛おしくて愛おしくて仕方がないのです。