雨傘零音

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雨に佇む




百合注意





雨に佇む私は幽霊。
普段は空気中の水蒸気でその場に留まっているようなもの。
でも流石に雨とくれば、空気中の水蒸気の濃度も増し、あたりの水気も増すので私の存在感も強くなる。
やがて雨が長引けば長引くほど水でできた私の体は実体を持ち、他の人間と差程変わらない所まで存在感が上がった。
ただ1つ、雨の中傘のひとつもささずに佇んでいても濡れることは無いというところを除けば、人間と見間違えるだろう。




















ふと、とあることを思った。
何故私は、雨の日だけ存在感が強くなるような特殊な幽霊になったのだろうか。
1人で考えていると、こちらに向かって足音が近づいてきたのでふっと顔を上げる。
そこに居たのはどこかで見覚えがある女の子だった。
彼女は私の前にしゃがみ込み、何かを置くとまた立ち上がる。
その立ち上がった瞬間、私はその子と目が合った。
彼女と目が会った瞬間弾かれたように蘇るのは過去の記憶。
それは、私が彼女に好きと伝えようとした日。この日もちょうど雨だった。
私が彼女に好きと伝えた瞬間、私の体はふっと軽くなり、それでいて重くなったような気もした。

この世界はちょっぴり他のところよりも特殊で、この世界では同性同士での恋愛はタブー。
同性愛が発覚した瞬時に、この世界の創造者樣である神樣が、禁止事項を破った者に対し、永遠の制裁を与える。
それは、好きだと言ったその日の天候の精霊となることだった。精霊になったものは、その天気の時にだけちゃんとした形を保って現れることができるが、その他の天候の時は空気も同然だ。




















そうだ、私は今目の前にいる彼女に雨の日に好きと伝えたから、雨の精霊になったのだ。


とはいえいくら実体を持って現れるとは言っても精霊は精霊、人間に見えることは無い。
人間が見ることが出来るのは、精霊がひとつ上の存在になった時に授けられる【聖霊】という称号のようなものを持っているものだけなのだ。



目の前にいても触れることすら出来ない。そんな地獄だ





だから私は、雨に佇む。

8/27/2023, 3:13:00 PM