あたたかいね
子どもの頃から冷え性だった私は冬になると決まって足の小指にしもやけを作っていた。
今みたく可愛いモコモコの靴下や靴用ホッカイロなんてものはなかったし、せいぜい寝る時に電気アンカが使えるくらいのものだった。
でも、しもやけが出来てしまうほどの冷え切った足に、ぼんやりしたアンカの熱など何の役にも立ちはしない。
そんな時、私は父の布団に潜り込むことにしていた。
仕事から帰ってきた父は軽く晩酌をしたあと、夜九時半には布団に入って寝てしまう人だった。
小学生の私よりも早寝だったのだ。
テレビではジャイアンツとドリフターズが活躍していた昭和の頃の話だ。
私は父の布団をそおっと捲り、氷のように冷え切った自分の足を父のふくらはぎにペタッと当てる。
ひいっ!といつもの短い悲鳴のあと、父は怒りもせずに私の足を温め続けてくれた。
時代は変わり令和。
リビングでは犬が抱っこしてと甘えてくる。
私は抱き上げた犬の足の余りの冷たさに驚き、慌てて毛布で包んだ。
「あたたかいね。」
優しく背中を擦り、頭を撫で、顎先を入念に搔いてやる。
手を止めると同時にもっと撫でてと犬が鼻先を突き上げてくる。
私は再び犬の背中を撫で始める。
ぼんやりと父のことを考えながら過ごす穏やかな冬の午後。
私は犬の足に手をやってみた。
先ほどの冷たさはもうすっかり消えていた。
お題
あたたかいね
未来への鍵
予知能力なんて言ったら大袈裟だけれど、私には何となく子どもの頃からそんなものが備わっていた気がする。
それは所謂事件や事故を予測するアレではなく、相手の心や言動を先読みする能力とでも言おうか。
スピリチュアルの話ではない。
どちらかと言えば、洞察力とか観察力の類の話だと思っている。
多分、私は自分の意図とは別の次元で、無意識のうちにそういうものを駆使して日常生活を送っていたのだ。
今の言葉に言い換えれば、空気を読む能力に長けていたとも言えるし、最大限悪く言えば、人の顔色を伺う子どもだったとも言える。
この能力の利点は、人とのトラブルを自然と避けられること。
何しろ相手の嫌がることが瞬時に分かるので、それをしなければトラブル自体も発生しない。
それだけのことだ。
ただ、思春期と言われる時期にはわざとこれと反対のことをして、周りを騒動に巻き込んでいたこともある。
何より周りの大人に子どもらしくない子どもというレッテルを貼られることが嫌だったのだ。
そして、この能力は気力と体力をとても消耗するので、普段はスイッチを切って生活している。
これが出来るようになってからは、生きるのがだいぶ楽になった。
何しろこんなことが出来る人間は自分の周りにはいなかったので、一時期は本気で自分は宇宙人なのでは?思っていたくらいなのだ。
日常の私はとてもポンコツだ。
怒ることも声を荒らげることもなく、ただひたすらに楽しいことを追求して生きている。
私が生きていく中で手にした鍵はこんな鍵でした。
あなたはどんな鍵を手に入れていますか?
それはもしかしたら未来への鍵かもしれませんね。
使い方には少し工夫がいるかもしれませんが……
お題
未来への鍵
星のかけら
私の手の中にある星のかけら。
いつからだろう?
むかしむかしから古いポーチ入って私の元にあったものだ。
ポーチの色はくすんだ赤色。
どちらかと言えばボルドー色に近い。
中に入っている星のかけらは、鮮やかなブルー。
かなり透明度が高い。
ある日、彼は言った。
「実は僕も星のかけらを持っているんだ。ほらこれ……」
私とは違う色のやはり古びたポーチから取り出したそれは、明らかに別の星のものだった。
試しに私の手の上に並べて見たけれど、やはり何も起きない。
その瞬間、彼は灰色の煙となって消えてしまった。
「十六人目でもダメか……」
私はそっと星のかけらをポーチに戻しながら呟いた。
今までも様々な星のかけらを見てきたけれど、色も形も本当に一つとして同じものはなかった。
あなたが持っている星のかけらは何色ですか?
お題
星のかけら
Ring…Ring…
不器用な恋をしていた頃、自分から好きと言ってしまったら負けのような気がしていた。
Ring…Ring…
あなたからの電話に気のない振りをする私。
余裕げに笑うあなたの態度はいつだって私を不機嫌にした。
一度も好きと言えずに終わった恋は、この気持ちだけが行き場なく宙を舞う。
あれからいくつも恋をして、心から好きと思える恋がどれほど貴重だったのかを知った。
Ring…Ring…
電話の向こうのあなたの声。
今はもう思い出すことは出来ないけれど、あの時の甘苦く切ない気持ちはまだここに、そっとある。
お題
Ring…Ring…
追い風
追い風なんて、普段あまり意識しない言葉ですけどね。
意外と、人が見ていないようなところでコツコツ真面目にやっていると、時々そんな風が吹くことがありますね。
そっと、後押ししてくれるような出来ごとが起きたりしてね。
見てる人は見てるんでしょうね。
分かる人には分かるみたいですよ。
もちろんそういうのが目当てじゃないですけどね。
それでも、まぁ嬉しいですよね、やっぱりね。
思わずニコッとしちゃいますよね。
お題
追い風