やわらかな光
やわらかな風に揺れる
やわらかな髪は
やわらかな手触りがして
それはまるで
やわらかな空気を纏った
やわらかな布が織り成す
やわらかな世界のようだった。
やわらかな眼差しは
やわらかな表情となり
やわらかな口調となった。
やがて、
やわらかな光が二人を包む。
やわらかな声は
やわらかなくちづけを誘い
やわらかな涙を溢れさせた。
お題
やわらかな光
鋭い眼差し
熱い眼差しにドキドキ
希望の眼差しにワクワク
優しい眼差しにキュンキュン
疑り深い眼差しにへきへき
恐怖の眼差しにブルブル
嫉妬の眼差しにさめざめ
羨望の眼差しにルンルン
憧れの眼差しにチカチカ
温かい眼差しにポカポカ
冷ややかな眼差しにズキズキ
差別の眼差しにガクガク
鋭い眼差しにバチバチ
お題
鋭い眼差し
高く高く
すくすく伸びやかに
高く高く天高く
そんな願いが込められた名前の幼稚園に子供たちを通わせていた頃の話である。
おともだちとケンカをした次の日、幼稚園にはもういかないと泣いた長男。
お遊戯会のリハーサルで張り切りすぎて、当日熱を出してしまった次男。
幼稚園の給食がおいしくないとタダをこねて先生を困らせた長女。
どれも大人からしたら取るに足らないことばかりだけれど、当の本人たちにとっては人生をかけた大問題だったようだ。
母は心の中でそんな彼らにいつもこう言っていた。
すくすくじゃなくていい。
伸びやかじゃなくていい。
高くなくていいし、天までなんか届かなくたっていい。
どうかどうか健康で、この先もゆっくり自分のペースで進めばいいと。
どうやら神様、その願いだけは聞き届けてくれたようで、健康だけが取り柄のマイペースな三人に無事に育ちましたとさ。
お題
高く高く
子供のように
子供の頃は早く大人になりたくて背伸びばかりしていた。
慣れないメイクをして、歩けなくなるとわかっているヒールの靴を履いて、いつも足は靴擦れだらけ。
年上の彼とのデートの日は大人びたワンピースを着て、本物の大人の女性に負けないようにと張り合って。
でもちょっとしたすれ違いが続いたある日。
終わりにしようと決めた私が着ていたのは、ラフなTシャツとハーフパンツとポニーテールに結った髪。
愛が消えた証拠を見せ付けるための格好だったのに、彼はすごく似合うよって破顔した。
今年十七歳になった娘は毎日鏡の前でのコーディネートに明け暮れている。
新作のコスメをいくつもねだられ、私のお気に入りの香水瓶からはどんどん中身が減っていく。
「ねぇお母さん、最近の服ってどうしてみんなおへそが見える丈なんだろうね。」
無邪気にそう尋ねる羽化間近の蝶々は、可愛いピンクのグロスを付けて今日も彼とのデートに大忙しだ。
お題
子供のように
放課後
今日は高校の卒業間際に起きた出来事を回想してみようと思う。
卒業式を二週間後に控えたある日の放課後。
私は教室で友人といつものおしゃべりに花を咲かせていた。
それはお互いバイトまでの時間調整でもあった。
今となってはどんな話をしていたのかまでは記憶にないが、おそらくは女子の関心事である新色コスメの話や、バイト先の人の噂話、好きな歌手のMVの話だったり、ときどきはそこに恋の話も混じっていたかもしれない。
この年頃の女子たちといったら、もう話したいことが次から次へと溢れ出してきて、いくら時間があっても足りないくらいなのだ。
そのとき、
私たち二人しかいない教室にタタタタタと数名の男子が入ってきた。
忘れ物か何かだろうと気にも止めずにいたら、その中の一人が意志を持ってこちらへと向かってくるではないか。
その子はすらりと背が高く、勉強は出来るが寡黙なタイプ、普段から女子との交流は少なめだったように思う。
私はと言えば、勉強は大の苦手、その代わりに誰とでもすぐに打ち解けることが出来るという特殊能力を持っていた。
え?なに?
私が戸惑っている最中、あとの男子二人が友達を廊下へと連れて出ていくのがわかった。
あー、何か始まるな。
しかも、たぶん面倒くさいことが。
こういう予感は何故か当たるように出来ているものだ。
案の定と言うか、いわゆる告白というものだった。
「三年間ずっと好きだったんだ。」
彼は怯むことなく私の目を見てそう伝えてきた。
まさしく覚悟を決めた武士のような凛々しい顔付きをしていた。
一方、私の方はと言えば、内心どうしょもないくらいにたじろぎ、うろたえていたと思う。
当たり前だ。
彼らはきっとこの日のために何度も綿密なシュミレーションを重ねてきたのだろうが、私にとってはまさにこの瞬間が青天の霹靂なのだから。
「あー、でも、私付き合ってる人いるよ。」
私は動揺を顔に出さぬよう、努めて冷静にそう言った。
当時、私には学校外に三歳年上の彼がいて、他の人が付け入る隙がないくらい二人の関係はうまくいっていたのだ。
「知ってる。だから付き合ってとは言わない。ただ、気持ちだけは伝えておこうと思って。」
彼は堂々とはっきりそう言い切った。
付き合うことが出来ないと分かっている相手に告白する意味なんて果たしてあるのだろうか?
自分の気持ちだけを一方的に押し付けられても私には何も出来ないのに。
身勝手過ぎる。
私は無性に彼を責めたくなった。
でも待てよ、何かが引っ掛かる。
そのとき、ふと過ぎ去った日々の記憶が頭の隅をよぎった。
あれは確か高二の修学旅行のときのことだ。
彼らと班行動が一緒だったことを思い出したのだ。
どういう経緯でそういうことになったのかまでは覚えていない。
島根県の津和野を散策して回ったとき、彼は常に私の隣にいた。
お土産屋さんでソフトクリームをおごってくれ、そのあとお揃いのキーホルダーまで買ってくれた。
帰りの新幹線では席が隣同士で、あんなに盛り上がって一緒に写真を撮ったではないか。
うとうと眠り込んでしまい目を覚ましたときに私を包んでいたのは、彼の大きなコートだったっけ。
今の今まで忘れていた記憶が、一気に私の脳内を駆け甦っていた。
そっか、そうだったんだ。
彼はただの身勝手な人なんかじゃなかった。
すでにあの頃から、彼なりに気持ちを伝えようとしてくれていたではないか。
私は鈍感な自分を恥じた。
と同時に、どうにかしてこの場を収めなければならないと思った。
「じゃあ卒業までの二週間は今まで通り友達として過ごそう。」
私は取り繕った笑顔でそう言うのがやっとだった。
彼はホッとしたのか初めて少し笑顔を見せた。
でも、結局この約束は守られなかった。
なぜなら、私は卒業式までの間、彼と話すことはおろか、顔を見ることさえも出来なかったのだから。
現実というのは結構な確率で残酷だ。
小説や映画みたいに美しいラストシーンが待っているなんてことはほとんどない。
あれから三十年以上経った今でも、あのときのことを思うと胸が痛む。
大人になった今ならもう少し上手くやれるのにという私自身の反省に似た後悔と、当時の彼の勇気を最大限称えた上で、この話は終わりにしようと思う。
お題
放課後