秋恋
秋風が吹く頃になると、無性に人恋しくなる。
20年前、パリのモンマルトル。
紅葉したプラタナスの小路。
薄手のコートの襟を立てながら、あなたのアパートメントまでの道のりを急ぐ。
途中、パン屋で焼きたてのクロワッサンとバゲットを買った。
たっぷりのカフェオレを入れて二人で食べよう。
早くあなたに会いたい。
ボルドー色のハイヒールが痛くて泣きそうになった記憶までが一緒くたになって蘇る。
え?20年前?パリ?モンマルトル?紅葉したプラタナス?
いったい何の話だ!?
最近の研究によると、秋に人恋しくなるのは夏の疲れによる自律神経の乱れが原因だと言われている。
俗に言うところの、秋うつ病らしい。
私の場合、そこに極度の妄想癖が加わって、どうやら脳内で壮大な秋恋ドラマを再現してしまったらしい。
今年の夏は特別暑く長かったから、きっと疲れているんだな。
今夜はゆっくり湯船に浸かって早めに眠るとしよう。
お題
秋恋
大事にしたい
人にはそれぞれに心地よい距離感というものがある。
それは物理的な距離はもちろんのこと、精神的なものにもある。
ここまではいいけれどここから先は入ってきて欲しくないという領域であったり、
その逆に、もっと近くに来て触れて欲しいと望むことだってあるだろう。
親兄弟や子どものように血の繋がりがある者同士。
血の繋がりはなくとも、夫婦のように特殊な結び付き方をした者同士。
気心の知れた友人同士であったり、時に自分よりも大切に思えることだってある恋人同士。
犬や猫や鳥、うさぎにだってそれはあるだろう。
それを一人一人、相手に合わせて的確に見極めるなんてことは、魔法使いにでもならない限り不可能だ。
しかし、大事にしたい気持ちが強ければ強いほど、人はその距離感を見誤る。
相手への思いやりだと思っていたものが、実は独り善がりのお節介だった、なんてことはよくある話だ。
そうやって人はすれ違い、時に苦渋を飲む。
私はこう思うのだけれど、
人は皆それぞれ目に見えない薄皮のようなものを纏いながら生きていて、その薄皮のあちらとこちらで均衡を保っている。
その均衡具合がお互いに心地よいと思える相手を、人は相性がよいと思うのではないだろうか。
今私の周りにいる人たちは、ありがたいことにそういう人たちばかりだ。
もちろん少数精鋭ではあるけれど。
お題
大事にしたい
夜景
地球を取り巻く無数の白く輝く塵に見えるものたち。
それらは大小さまざまで、何層にも重なり地球を取り巻いている。
画像で見れば美しい夜景に見えなくもないが、実のところはロケットや壊れた衛星の残骸である。
いわゆるスペースデプリと呼ばれる宇宙ゴミだ。
人が生活していれば必ずゴミが出る。
海や山へと活動場所を広げれば広げるだけ、人はその場所にゴミを撒き散らしてしまう。
今や恐ろしいことに宇宙までもがゴミだらけだ。
そんなゴミを纏った地球に暮らす私たち。
果たしてそんな愚かな私たちにまともな未来など残されているのだろうか?
お題
夜景
花畑
それぞれ自分たちに割り充てられた区画にお行儀よく並んで一斉に咲く、色とりどりの花。
春の訪れを知らせるチューリップを先頭に、可憐な黄色の菜の花や、艶やかなツツジ、人気者のパンジーやビオラたち。
晩春を彩るのは言わずと知れた丘陵地を埋め尽くすほどの芝桜。
どこまでも続く壮大なピンク色の絨毯は、毎年この時期の風物詩となり訪れる人々の目を楽しませている。
もちろんこれらの花は、どれも文句の付けようがなく美しく素晴らしいのだけれど。
どうも天の邪鬼な私は、そうやって人為的に作られた優等生のような花にはちっとも魅力を感じないのである。
それよりは、空き缶やタバコの吸殻が無造作に投げ捨てられているような道端の植え込みの中でひっそりと咲く、名も無き雑草に妙に心惹かれてしまうのだ。
自分でもつくづく面倒くさい性分だなぁと思っている。
お題
花畑
君からのLINE
私はLINEが不得手だ。
特に気になる異性と交わすLINEはどこか私をぎこちない気分にさせる。
仕事絡みでも、そうでなくても、事務的なやりとりや社交辞令のようなものであればなんてことはない。
むしろ、この上ないくらい感じよくこなせるのだけれど。
問題は、そこから相手が一歩が踏み込んで来たときだ。
「この前は助かりました。今度、お礼に食事でもごちそうさせてください。」
「どういたしまして。お力になれたのであれば何よりです。どうかどうかお気遣いないように。」
社交辞令を通すのであればこのくらいの返信をしておけばいい。
大抵の場合、この1ターンで片が付く。
「ちなみに○○さんはお肉好きですか?」
なんて、難なく2ターン目に突入された場合が問題だ。
途端にちょっと雲行きが怪しくなる。
「好き」と答えたらエイジングビーフの焼肉かステーキが待っているし、「ごめんなさい、お肉はちょっと…」と答えると、カウンター寿司か創作和食に連れて行かれ、どちらも断るとホテルのランチビュッフェという最終手段に突入する。
しかも、こういう押しの強い男に私はめっぽう弱い。
それが分かっているだけに厄介なのだ。
「今度、中華街で北京ダックを食べましょう。」
「どこどこの一つ星フレンチご一緒してもらえませんか?」
「○○さん、この前シカゴピザ食べたいって言ってましたよね。」
一通りおいしいものを堪能して、
気軽にスペインバルや韓国料理やエスニックに行く頃には、いつの間にか恋人のような雰囲気になっている。
「あんたほど簡単に胃袋を掴まれる女も珍しいよ。ほんと見かけによらずチョロいんだから。」
気心の知れた昔馴染みの声がどこからか聞こえてきそうだ。
今回こそはそんなことにならないようにと、自分の振る舞いに細心の注意を払う。
ピロリン♪
君からのLINE。
さて、今回の2ターン目は何と返信しようか。
お題
君からのLINE