誰かを好きになり、会いたい、いつまでもそばにいたい、っていう、満たされない気持ちを恋というなら
私はあなたに恋はしていない。愛してるわ。
恋って楽しくもあるけれど、時に辛くてしんどいもの。
それでも、まだ制服を着ていたあの頃、
両思いなのか片思いなのかもわからず、それでも、帰り道鉢合わせたりするかなとか、部活がんばってるかなとか、そわそわしてたあの頃、あの頃のあの切なさは、ほろ苦いけど宝物。
あれはきっと、本気の恋だった。
「お母さんの 名前に
くさかんむりをたしたら、
わたしの名前になります。
お父さんが、
お母さんをだいじにしないと
おまえには、くさかんむりしか のこらないよ
と、わたしにいいました。」
名前って、どんな人にとっても、唯一無二で、何があろうとも、名前をもらった瞬間のそこには愛しかないとおもうの。
私ね、自分の名前の意味を初めて聞いた時、なんじゃそりゃって思ったの。今でも思い出したら笑えるわ。お父さん、どんだけお母さんのこと好きなのよ。お母さんもよくOKしたよね。でもそれだけじゃないって今ならわかるよ。私の名前には私への愛で詰まってるってこと。
お母さん。私、たくさんの愛情もらったけど、今は同じくらい、あなたに愛を渡したいのよ。私も歳をとったってことかしら。私の名前含めて、お父さんもお母さんも大好きでたまらないの。
お母さん、最愛のお母さん。
元気で長生きしてよね。
お父さん拗ねないで。私お父さんも大好きよ。
別の家庭に生きてても、私の親はあなたたちだけなの。いくつになっても、結婚しても、私はあなたたちの最愛の娘だって胸を張って言えるの。
こんな幸せなことってあるかしら。
虫とはわかり合えない 夏
大切な人にとって、そして私にとって、
最後に会った日が
特別な日でもいい、そうじゃなくてもいい。
悲しい寂しいだけじゃない、
優しくて綺麗で切ないけれど愛おしい、
そんな日であってほしいと願う。
そんな思い出になってほしいと願う。
自分の手のひらにある大事なもの。
仕事、家族、信頼、お金、友人、恋人、子ども、思想、プライド、思い出…
人それぞれ大事なものを抱えて、大人は生きているの。
大人の私もそう。
大事なものをこぼさないように。傷つけないように。
握って。包んで。すくって。時には両腕で抱き締めて。
それでも落としてしまった時に、何かを拾うために自分が持ってるものを下ろさなきゃいけなくなった時に、
ひどく悲しくなる。寂しくなる。自分が許せなくなる。
子供の頃は今とは違ってたと思う。
指の隙間からたくさんのものが溢れていった。小さな手は多くは持てなかった。力加減がわからなくて潰してしまった。そんなもの、そんなこと、たくさんあるの。
それでも周りにはたくさん、キラキラしているものがあった。ほしいものであふれてた。こぼしても落としても気付けなくても、次の瞬間には楽しい世界が広がっていた。
大きくなって、子どもの時には視界にすら入らなかったものに手が届くようになったけれど、
足元にあるものを拾うには、屈まなくちゃいけなくなった。
子どもの頃よりも持てる量は増えたから、いざ幼い頃に落とした、拾い損ねた綺麗なものを改めて拾おうとしても、小さな隙間に入り込んでしまって大人の厚い手ではその隙間に入らない。届かない。
お父さんと手を繋いだ帰り道。ただよってくる夕ご飯の匂い。卒業式での担任の先生の涙。初めてもらったお小遣い。木の幹についていたセミの抜け殻。
初めてのケンカ。初めての仲直り。初恋。
雨上がりに虹がかかってないかなというワクワク。明日の約束。おじいちゃんちのにおい。
何もかもが綺麗に見えた、あの、脆くも眩しい世界のなかの、わたし。