mol

Open App

自分の手のひらにある大事なもの。
仕事、家族、信頼、お金、友人、恋人、子ども、思想、プライド、思い出…
人それぞれ大事なものを抱えて、大人は生きているの。
大人の私もそう。
大事なものをこぼさないように。傷つけないように。
握って。包んで。すくって。時には両腕で抱き締めて。
それでも落としてしまった時に、何かを拾うために自分が持ってるものを下ろさなきゃいけなくなった時に、
ひどく悲しくなる。寂しくなる。自分が許せなくなる。

子供の頃は今とは違ってたと思う。
指の隙間からたくさんのものが溢れていった。小さな手は多くは持てなかった。力加減がわからなくて潰してしまった。そんなもの、そんなこと、たくさんあるの。
それでも周りにはたくさん、キラキラしているものがあった。ほしいものであふれてた。こぼしても落としても気付けなくても、次の瞬間には楽しい世界が広がっていた。

大きくなって、子どもの時には視界にすら入らなかったものに手が届くようになったけれど、
足元にあるものを拾うには、屈まなくちゃいけなくなった。
子どもの頃よりも持てる量は増えたから、いざ幼い頃に落とした、拾い損ねた綺麗なものを改めて拾おうとしても、小さな隙間に入り込んでしまって大人の厚い手ではその隙間に入らない。届かない。

お父さんと手を繋いだ帰り道。ただよってくる夕ご飯の匂い。卒業式での担任の先生の涙。初めてもらったお小遣い。木の幹についていたセミの抜け殻。
初めてのケンカ。初めての仲直り。初恋。
雨上がりに虹がかかってないかなというワクワク。明日の約束。おじいちゃんちのにおい。
何もかもが綺麗に見えた、あの、脆くも眩しい世界のなかの、わたし。

6/24/2022, 10:05:10 AM