時を告げる
大きく鐘が鳴る。古びたそれは近年騒音だと騒がれているのも事実だが、時を告げる大いなる役割を長年努めてきたものだ。
朝日とその重みある音を受け、今日も頑張ろうと私は思えるのである。
貝殻
「桜貝の貝殻を100個集めると恋が叶うって子供の頃聞いたな」
「結構ハードル高いな、桜貝ってどれだ?」
夕方の砂浜で他愛のないことを話しながら歩く。しゃがみ込んでいた彼が、これか?と言いながら拾い上げた、思ったより濃いめのピンクの小さな貝殻。
「これは大変だな」
そう言って何度も頷く。
「そんなに叶えたい恋がお有りで?」
そう問いかけると慌てて貝殻を放り出した。
「いや、そんなもの無いな。今の恋が大事、うん」
そう返してくるので、思わず吹き出してしまった。
些細なことでも
「んー、質問がこない」
あ、しまった声に出てた。そう思ったら隣の同僚から笑い混じりに声をかけられた。
「佐々木さんですか?」
「そうなんですよー」
佐々木さんは最近入った新人さんだ。やる気はあるのだが、残念ながらから回っているのだ。疑問に思ってほしいタイミングでも前のめりに行動してしまう。その都度、分からなければ質問してほしい。分からないことはないか。と声かけをしているのだが、なかなかよろしくない。
彼には今、隣の部屋でこれまでの業務を纏めて自分用マニュアルを作ってもらっている。これで質問を洗い出せたらいいのだが、そろそろ結構な時間になるが質問がこない。
「些細なことでもいいから、質問出してくれればなぁ」
「乗り越える壁ですねぇ」
全くもってその通りだ。どんな些細なことでも、質問してくれた方がこちらは助かるし、あちらも助かるのである。
早くこないなかぁ、そう思いながら自分の業務をこなすのであった。
心の灯火
いつもは全く気が付かない
もしかしたら遠くに追いやっているかもしれない
雑に扱っているかもしれない
しかし
嵐がやってきた時
崩れ落ちそうな時
寂しさに凍えそうな時
そっと寄り添い照らしてくれる
そんな心の灯火に助けられるのだ
不完全な僕
「うーん、また血圧が高いな」
300オーバーとは困るな。そう零しつつ血圧計を外す。
今の僕は上半身に着るものをはだけて、椅子に座っているところだ。
上半身に見えるのは肌ではなくカバーが見えて、それが開いた中身は、内臓や筋肉の代わりになる機械が詰められている。
僕はロボットだ。それもポンコツの。
僕のことを作った博士は、人間に溶け込むロボットを目指していたらしい。
見た目も挙動も体温や心音までも、人間そのままになるように作る予定だったという。
しかしどうやっても血圧が高くなってしまうのだ。
何度も試行錯誤を続け、とうとう博士は倉庫に僕を仕舞い込んだ。
倉庫の中は暇で暇でしょうがなかった。飽きた僕はとうとう自分で自分を改造し出した。
色々弄ると、体温ががくりと下がったり、冷却剤が零れてしまったりとトラブル続きだった。
それらをなんとか乗り越えて、当初からの難問である血圧に挑んでいるのである。
「もう少し弁の威力を落とした方がいいだろうか?」
擬似心臓を調節しつつ呟いた。自分がポンコツなのは事実なので悲しくはないが、暇が続くと『悲しく』なるのだ。だから意味の無い実験を繰り返している。
不完全な僕は完全を目指すあまり、不完全なまま外に出れることに気が付かない。
博士の残した難題にしがみついている。