喫猫愛好家

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2/23/2024, 2:13:48 PM

I Love you を夏目漱石は「月が綺麗ですね」と訳したらしいけど、そんな遠回りなこと言ってないで160km/sの直球ストレートで勝負に出て欲しい。バッターボックスに立った私は、きっと八百長を疑われんばかりのから振ぶりを繰り返し、アウト。簡単にあなたの胸に飛び込めるのに。
「好きです」の四文字をずうっと待ってるのに、一向にそんな気配はない。適当に遊んで適当に飲む関係。別に肉体関係はないからただの友達だと言うこともできるけど、少なくとも私は自分の中にあるそれ以上の感情に気づいてしまってるし、彼が友人に私のことを相談してるのも知ってる。でも好きバレは良くないって聞くし、男は追っていたい生き物ってなんかの雑誌で読んだから、私からは絶対言わないって決めてる。彼は大学の野球部のキャプテンだし、脳筋だけど一応授業でも忙しくしてるみたいだから、私なんか眼中にないのかもしれない。なのにこんな曖昧な関係は続いてる。ストレートが一番得意な球って言ってたのは嘘だったのだろうか。
 居酒屋を出て、駅までの道を2人で歩いていると、もうすぐ満ちるだろう月が燦々と輝いていた。隣の男には文学の知識もそれを味わう情緒もクソも多分ないから、言っても気付かないだろう。それでも少しは気付いてくれるんじゃないかという淡い期待と、バレてしまうかもという若干のスリルで胸がいっぱいになる。「ねえ、月が綺麗だよ。」私は彼をまっすぐ見据え、バットを構えた。

2/22/2024, 11:32:15 AM

飲み会も佳境に入り、各々のテーブルで酒に飲まれた人が続出しだした。僕の横には同期の女の子。彼女もどうやら相当酔っているらしく、常に口角が上がっている。ふと僕の視線に気づくと、太陽のような笑顔で彼女は言った。「さんじゅうまでおたがいふりーだったら結婚しよ?」
また、この光景か。目を覚まし、スマホで時間と日付を確認する。僕は30の誕生日を1人で迎えた。ここ最近あの日の夢ばかり見る。先週彼女の結婚式に呼ばれたこともあるのだろうか。彼女のために開けておいた特等席だったはずの席は今でも尚空席だ。あの日あんなことを言って、勝手に僕の心に居場所を作ったくせに。
カーテンを開けると朝日がまぶしい。太陽のような笑顔から溢れた戯言も少し期待してた愚かな自分もこの光が包んでまっさらにしてくれたらいいのに。