『些細なことでも』
「人間は些細なことでも争いを始める弱き生き物だ。我らがそれを作ってやれば良い。そうすれば我々が手をくださずとも良い」
一つの提案に多くの賛同が集まった。
我ら一族の存続をかけた会議であったが、我には到底理解できない薄っぺらい内容だ。
「そんなんで人間が滅ぶわけがない」
少し呟いただけのつもりが、思いの外響いた。
一斉に注目を浴びてしまう。
「何だと? 貴様、長の提案に異議を唱えるか」
「異議などない。ただ、その些細なことを慎重に選ぶのが重要となる。人間文明は長く続いている。存続させてきている種を些細なことで滅ぼすには相当の苦労を要するだろう」
確かに。という声があちこちであがった。
だが偉そうな長の補佐はそれを許さない。
「そんなわけない。上手いくいく」
「上手くいくわけがない。お前の大したことのない頭ではな」
「何だと!?」
勢いよく立ち上がって怒り心頭の補佐に我は笑うしかなかった。
何がおかしいと叫ぶ補佐に言ってやることにした。
「今ので怒ったか。我の些細な発言に、お前は今にも我を殺めそうだ。……我らも人間と同じよ。些細なことで争いを始める一族だ。だから我らも弱き者ということだろう?なぁ長」
「むぅ……」
「だから共存を目指すべきだ。弱き者同士。我はそれを提案する。確実に我が一族が存続するためには」
「しかし、我らが人間に滅ぼされる可能性も……」
我はくっくっと笑う。
「長、お忘れか?我ら一族は人間に化けることが出来る。そして交わることも可能。だが遺伝子は我らが強い。……人間が気づかぬ間に我が一族が人間社会に君臨するだろう。”些細なことでも”確実に」
創作 2023/09/04
(ちょっと難しいお題でよくわかんなくなりました)
『心の灯火』
長く続く戦乱の世がいつ終わるとも知れぬ。
果てしない斬り合いに、己の心が荒んでいくのを感じていた。
会話も、共に過ごした時間もなければ、顔すら見たことがない人をこの手にかける。
心の底では「人なんて斬りたくない」
多くの者がそう思っているのに、大義だの誇りだの勝利だののために刀を抜く。
話し合うこともせず、ただ力で黙らせることに未来はあるのだろうか。
そう、自身も疑問を抱いているのに
この体は止まらない。
とっくに心が壊れていてもおかしくはないのに、紙一重で正気を保っていられるのは
そんな己にも帰りを待つ愛する女〈ひと〉がいるからである。
彼の女の笑った顔、優しい顔――多様な顔の記憶が、刀を握りしめている間でも己の心に灯火を与えている。
必ず生きて帰る。
己が己を保つために。
創作 2023/09/03
『開けないLINE』
あなたから送られてきた最後のメッセージ。
私はどうしてもそれを開くことが出来ない。
書いてある文章は知っている。LINEのメッセージ一覧に、たった一言表示されているから。
だけど、未だに既読をつけることが出来ないでいる。
もし開いてしまったら、未読1の表示はもう二度とつくことがないのが分かっているから。
もし。
このメッセージをあなたの訃報を聞く前に開いていたら、私はこの開けないLINEで悩むことはなかったかもしれない。
多くの人からメッセージが来るたびに、あなたのトークは下へ下へといく。
沢山の公式LINEのメッセージにうんざりして、一斉に既読をつけたかったけどもしそれをしたらあなたのLINEに既読をつけてしまう。
だから膨大な公式LINEのメッセージも、一つ一つトーク画面を開いていき既読をつけていくのだ。
いつか既読をつける日が来るとしたら、それはあなたのことをいい思い出に出来たときです。
せめてそれまでは、まだ未読のままでいさせてください。
創作 2023/09/02