『心の灯火』
長く続く戦乱の世がいつ終わるとも知れぬ。
果てしない斬り合いに、己の心が荒んでいくのを感じていた。
会話も、共に過ごした時間もなければ、顔すら見たことがない人をこの手にかける。
心の底では「人なんて斬りたくない」
多くの者がそう思っているのに、大義だの誇りだの勝利だののために刀を抜く。
話し合うこともせず、ただ力で黙らせることに未来はあるのだろうか。
そう、自身も疑問を抱いているのに
この体は止まらない。
とっくに心が壊れていてもおかしくはないのに、紙一重で正気を保っていられるのは
そんな己にも帰りを待つ愛する女〈ひと〉がいるからである。
彼の女の笑った顔、優しい顔――多様な顔の記憶が、刀を握りしめている間でも己の心に灯火を与えている。
必ず生きて帰る。
己が己を保つために。
創作 2023/09/03
『開けないLINE』
あなたから送られてきた最後のメッセージ。
私はどうしてもそれを開くことが出来ない。
書いてある文章は知っている。LINEのメッセージ一覧に、たった一言表示されているから。
だけど、未だに既読をつけることが出来ないでいる。
もし開いてしまったら、未読1の表示はもう二度とつくことがないのが分かっているから。
もし。
このメッセージをあなたの訃報を聞く前に開いていたら、私はこの開けないLINEで悩むことはなかったかもしれない。
多くの人からメッセージが来るたびに、あなたのトークは下へ下へといく。
沢山の公式LINEのメッセージにうんざりして、一斉に既読をつけたかったけどもしそれをしたらあなたのLINEに既読をつけてしまう。
だから膨大な公式LINEのメッセージも、一つ一つトーク画面を開いていき既読をつけていくのだ。
いつか既読をつける日が来るとしたら、それはあなたのことをいい思い出に出来たときです。
せめてそれまでは、まだ未読のままでいさせてください。
創作 2023/09/02