[別れ]
なーなー、お前は別れってなんだと思う?
……ん?いや、そんな深い意味は無いよ。だから怪訝そうな顔すんなって。
この世には色んな別れがあるだろ?例えば、付き合っていた恋人と別れたとか、成長して親と別れたとか。寿命でじいちゃんばあちゃんと別れるなんてのもあるな。もちろん、いきなりのお別れだって。
だーかーらー、そんな嫌そうな顔すんなよ。お前だって卒業式近いじゃん。いいな〜、俺は出席できないのに。
……俺?俺は…なんだろ、分かんねぇな。
友達とか、恋人と別れたらもう一度会える可能性あんじゃん?心構えだってできるし。でも、ペットとかが死んじゃってお別れってなったら、いきなりのことで心構えもできないだろ?産まれる前にお別れになっちゃう子だっているしさ。でも、そういう子だって生まれ変わりとか言われることもあるしな。
だから、うーん……
わかんねぇや、やっぱ。俺にそんな哲学みたいなことは無理っぽい。最期くらいは格好つけたかったのにな〜台無しだよこれじゃ。
ん?なに泣いてん……あ、薄くなってってる
あーほらほら、そんなに泣くなって〜。わかった、謝るよ。深い意味がないなんて嘘だ、本当は……もっとかっこいいこと言いたくてさ。ほら?最期の言葉とかあるだろ?
せっかく四十九日間もお前の前にいれたんだし、お別れも先伸びできてたんだから。って、こんなこと言っても意味ないよな。
掴むな掴むな。もう触れないの知ってるだろ?
ってかやばいな……もうすぐだこりゃ。あ〜、もういいや!
俺はここでお前と一旦お別れだけど、またきっと会えるから。生まれ変わりとかはいまいち信じてないけどさ、きっと会いに来るから!俺が無理だったらお前がよぼよぼのじいちゃんになった時に再開だろうけど、その時はまた怒鳴ってくれよ?だからその……元気でな!
目の前で、あいつだったものがハラハラと風に溶けていく。やだ、まだ行かないでくれ。俺は必死で窓の外に手を伸ばしそれを掴もうとするが、手に残ったのは俺の涙だけ。あいつの欠片は一つもない。
笑顔で笑ってたあいつ、轢かれたくせに次の日ケロッとした顔で俺の部屋にいたあいつ。話せるのに絶対に触れなかったあいつ。最期、やけくそで泣きそうに笑いながら消えていったあいつ。
「元気で、いろって……」
結局最期まで格好悪くてあいつらしかった。俺は涙を拭って窓の外、青く澄み渡った空を見た。
「待ってるからな〜〜!!」
本当は、消える前に言ってやりたかったけど。今だけは涙を堪え、笑顔で空に叫んでやった。
[恋物語]
ずっと、好きな人がいる。
目立つタイプではないけれど、まつ毛が綺麗で、手がしなやかで、優しくて、朗らかな人。
最初は友達だったはずなのに、気付けばその人の虜になっていた。
連絡先を交換して、毎日のように話して。休日はよく一緒に出かけたりお互いの家に行ったり。学校でも周りの人に常にいる2人という扱いを受ける程度には、一緒にいたはずだ。
最初は、どうせ無理だからせめて友達だけでもと思って話しかけたが、気付けば相手にとっても大事な存在にはなれていたはずだ。
「ずっとずっと、片倉君が好きでした!付き合ってください!」
体育館裏に響く告白の言葉。2人に漂う、青春特有の甘酸っぱい雰囲気。けれど、それを言ったのは俺ではなかった。
辺りには心地の良い穏やかな風が吹いている。しかし、俺の中では汚泥のような感情が溢れ出てきた。
なんでそいつなんだ?だって、字は汚いし勉強も出来ない。いつも期末テストの時は俺に泣きついてきていた。たまに人を揶揄うし、抜けてるところがあるし、それ以外にもいっぱい……
お前もなんで満更でも無い顔なんだよ、殆ど関わったことなかっただろその子と。そんな、そんな俺も見たことない顔で嬉しそうにするなよ。
俺の中からドロドロぐちゃぐちゃしたものが溢れてくる。しかし、角の向こうでは甘酸っぱくて爽やかな、青春が溢れている。
片倉に告白した子が、頬を赤らめ目に涙を浮かべる。その様子を最後に、俺は思わず反対方向に駆け出した。
次の日、俺はいつもより少し遅めに来て、教室の前であの子と別れた片倉に話しかける。
「お前あれ彼女かよ〜?ずりぃぞ、俺より先に可愛い子とくっつくなんて。」
上手く喋れているかが分からない。
やめろ、そんな顔で頷くな。そんな幸せそうな、気恥しそうな顔で。
「どういう出会いなん?照れんなよ〜、応援するからさ!」
俺はまたいつも通り、あいつの友達になった。
[風に身を任せ]※SFチックでバカ長いです
身体中の内蔵がふわりと浮かぶ感覚。目まぐるしく変わっていく周りの景色。自身の声も聞こえないほどの風の音。そして、乗り終わった後のジェットコースターなんて比にならないくらいの気持ちよさ。
「ふぅ〜〜、気持ちよかったな。」
俺はそう言うとVRゴーグルを外し、共感ボックスから出てきた。耳についてるイヤホンからは友人の声が聞こえる。
「やっぱこれが1番だよな〜、次なんにする?」
友人の話を聞きながら、コーヒーを入れて窓の外を見た。涼しげな夏の景色。さんさんと太陽が輝き、風にほのかに揺れられる影を作り出している…………という、映像だ。
俺はイアに酒とつまみを頼むすると、すぐにボックスが開いてスルメと酒が出された。
「なぁ、」
友人に話しかけつつビールを飲む。
「今お前の地区は何時?」
「いきなりなんだよ。」
そうは言いつつも、少し間を置いて返事が来る。窓を確認したのだろう。
「夜だってさ。アラーム鳴ったし俺もう寝るわ。」
「そ、おやすみー。」
返事した直後に通話が切れた。俺は酒を飲みながら窓を、正確には地区ごとに分けられた時間を見た。
「何しよっかな。」
テレビを見るか、ゲームをするか。それともまた共感ボックスに入るか。そこまで考え、ふと普段なら絶対に思い浮かばない考えが出た。
「外行くか?」
ここ何十年は外に行っていない。最後に行ったのは、恐らく子供の頃だろう。その頃からだ、世界がおかしくなって行ったのは。
「なぁイア、今日の外の天気は?」
イア、正確には「生活サポート型AI」だ。どっかの誰かがチャッピーと似たような感覚であだ名をつけてから浸透し、JAPAN地区では大抵の人がこの名前を使っている。
『外ですか。』落ち着いた、女性の声が返事をする。
『本日の天気は雨で、気温は39°ですね。秒速も15m以上ありますし、お外はやめた方が良いかと。』
親父はこの声を聞いて、とてもAIとは思えないと言っていた。この声しか知らない俺たちはあまりピンと来なかったが。
「飛行型出して。」
『しかし、』
渋るイアを押し切るように言う。
「いいの。屋根あるでしょ?」
『……承知いたしました。せめて、防護服を着用の上でご乗車くださいね。』
「はいはーい」
そこで音声は切れ、外で音がする。飛行型自家用車の用意をしているのだろう。なんだか今日は共感ボックスでの偽物ではなく、本物の風を浴びたい。
共感ボックスとは、過去に誰かが体験したものを、そのまま体験出来る装置だ。俺はさっきスカイダイビングをしていた。
レインコートとゴーグルをつける。防護服なんてご立派なものじゃないが、今はこれでいい。
『飛行型自家用車のご用意が整いました。本日は自動モードを推奨します。』
「いや、俺が運転する。」
『しかし、』
「いいだろ?」
イアが黙り込む。考えている演出だ。こうなると答えは決まっているので、俺は運転席に乗り込んだ。
『十分に気をつけてくださいね?』
「わかったよ」
俺はイアを切った。そして耳につけていたイヤホンを外す。飛行型を飛ばすとすぐに外の景色が見えた。薄暗い雲、風に強く揺られる木々、人っ子一人いない町。当然だ。人類は既に外出の必要なんてないのだから。速度を最高速度にして、追い風になるように飛行コースを飛ぶ。たくさんの雨粒がフロントガラスに当たってきて、ボツボツと音がした。
「あ、車内を防水にすんの忘れてた。」
慌ててモードを切り替える。そして、俺はゴーグルを目元に下ろし、窓を全開にした。
「うわ、すげぇ!」
風の音が強く、自分の声が聞こえずらい。大量の雨ですぐに飛行型内はびしょ濡れになった。着てきたレインコートが風と雨でほとんど意味をなさず、ゴーグルもすぐに雨水で見えなくなる。
「っはは、意味ねぇじゃんこれ!!」
歓声をあげながらゴーグルを外し、無理やり目を開く。口を開けると大量の雨がすぐに入ってくるので、口は閉じた。
びしょ濡れになった服が腕に張り付く。寒いし不快なはずだが、なぜだかとても気持ちがいい。共感ボックスなんて比にならないくらいだ。
風に身を任せて飛ぶ。もう何十年ぶりだろうか、こんなふうに暴風の中をびしょ濡れになるなんて。もしかしたら人生で初めてかもしれない。
思う存分飛び回ってから、俺は自宅に戻った。すぐにイアを起動して飛行型をしまい、風呂に入って着替える。
脱衣所から出ると、呆れたようなイアの声がした。
『随分楽しそうでしたね。』
その言葉に、俺は笑って返す。
「あぁ、気持ちよかったよ。」
[一年後]
一年後の私はどうなっているのだろう。
今の私は不登校だ。きっかけなんて、くだらないものしかないので省かせてもらう。
友達に会いたい、勉強をしたい、来年は受験生なのに。そう思う気持ちは山々出し、なんなら毎日そのことを考えてしまう。しかし、どうしても「今行ったら体育祭で足を引っ張る」「まだ遅れた分の勉強をしていない」ということが私の足を引っ張っている。中学二年生という大切な時期をこんなことで潰したくない。
そんなところに、友達から「大丈夫?」とメッセージが送られてきた。これを返信するか、逃げるかで私の今後は大きく変わるような気がする。気がするだけで、本当にそうかは分からないが。
取り敢えず、メッセージアプリだけでも開こうか。
[流れ星に願いを]
―夏休みの天体観測、水瓶座の流星群と重なるらしいよ
放課後、教室の前を通るとそんな話が聞こえた。思わず立ち止まり耳を傾ける。何人かで親しげに話している声が聞こえたが、すぐに別の話題に変わってしまった。
廊下を歩きながら、ふと小さな頃に祖母から聞いた話を思い出す。
あれはたしか何かしらの流星群があると聞いて、珍しく夜更かししながら星を見ていた時のことだ。私が流れ星を見る度、必死に願い事を3回言おうとしては失敗しているのを見て、おばあちゃんはいつものように優しく微笑みながら口を開いた。
「美優ちゃんは、なんでお星様に3回お願い事をすると思う?」
私は少し考えたが答えられなかった。そんなの考えたこともなかったのだ。すぐに分からないと言うと、おばあちゃんは夜空を見上げた。
「お星さまにね、この願いを叶えるため努力するので、どうか見守っていてくださいって伝えるためなんだよ」
その話を聞いて、私は首をかしげた。伝えるだけなんて、意味がないではないか。それまでずっと、最近流行りのシールが欲しいと願っていた私は、抗議の声を上げた気がする。
しかし、その質問におばあちゃんはあっさりと答えた。
「お星さまはね、ご先祖さまなんだよ。だから私たちを見守って、時には少し手助けしてくれる。そんなご先祖さまに、今後何に向かって努力するか、報告するためなんだよ」
そんなの、ただの綺麗事じゃん。思わず私は言い返したが、おばあちゃんは少しだけ悲しそうな顔をするだけだった。今思えば、数年前におじいちゃんを亡くていたのもあったのだろう。
「―っと、危ない」
小石に躓きかけ、私は思い出から戻ってくる。今はおばあちゃんも死んでしまい、会えるのは記憶の中だけだ。
空を見上げると、一番星が光り始めていた。
「おばあちゃん、見てるのかなぁ」
思わずつぶやく。これまであの時のことを思い出すのは滅多になかったが、天体観測の話で思い出したせいかもしれない。確か、あれはうちの学年で自由参加の行事だったはずだ。
私は何を星に願おうか。
そんなことを考えながら、家の扉を開いた。
[追加。タヒ表現あり⚠]
暗い森の中、もう右も左も分からない中で、ふと空を見上げる。すると、一筋の光が見えた。
「流れ星か」
思わずつぶやく。子供の頃は流星群があるときは夜更かしをして、必死に願い事をしていたものだ。
「懐かしいな」
いつぶりに見ただろうか。ここ数年は、人工の光しか見ていなかった。
疲れて痛む足を無理やり動かし、歩き続ける。最初は軽かったはずの背中の荷物が、今は投げ出したくなるほど重かった。
そういえば昔、流れ星は人が死ぬ瞬間に流れると聞いたことがある。ということは、今この瞬間に誰かが死んだのだろうか。
「、ハッ」
ばかばかしい。しかし、こんな状況のせいか1度よぎった考えは頭にこびりついたままだった。
足の感覚がなくなってきた頃に、良さげな洞穴を見つける。座り込み、鞄の中身を取り出した。
数本のビール瓶と開け、一気に飲む。薬を肴に最後の晩酌だ。ぬるくて美味いとは言えないが、なけなしの金で買った最後の贅沢品。
「綺麗だなぁ」
こんなに綺麗な夜空は実家ですら見なかった。最後に見る景色がこれで良かったと妙な満足感を感じる。
薬を飲み込み、ふと思った。俺も死んだら流れ星になれるのだろうか。馬鹿みたいな話だが、そんな事も今は信じられそうだ。
俺の星に誰も祈りませんように。一瞬流れた星にそんなことを願いながら、酒を煽った。