アルミ合金のムニエル

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4/3/2026, 11:29:21 AM

一つだけ


 鉛筆画をぐちゃぐちゃに握りつぶして、ゴミ箱に投げたが入らなかった。拭った汗は黒く、生温かかった。満足いく風刺画が描けず、一か月が経過していた。
 アトリエには湿度を含んだ隙間風が絶えず吹き込んでくる。
 ゆっくりと伸びをした後に席を立ち、腰を回すとバキバキと音が鳴った。持っている中でいちばん上等な服に着替えて、近所の文房具屋に向かう。
 足取りが重い。
 石畳に躓いた。
 文房具屋はあまり繁盛している様子ではなかったが、店主の気立てがよく、固定客がよく出入りしているよつだった。
 絵画のことを愚痴ると、「まだまだ若いんだから」と、店主に励まされる。同情に似た感情が辛かった。絵を何枚か手渡し、無言でその場を離れた。

 また描いた。上手くはいかない。書くのをやめた。ストレスでおかしくなりそうだった。暗く狭い、ただの部屋の中で閉じこもり、鉛筆だけが無駄に短くなっていく。
 何かが違う。何が違う?何かが違う。
 満足できない。多分一生そうなんだろう。
 未来で庭に咲き誇る鮮やかな睡蓮を思い描きながら、目の前の真っ白なキャンバスに向かう。

4/2/2026, 10:44:07 AM

大切なもの

外から、拘置所の中は見えない。
面会席に座るが、小部屋以外はわからない。目の前の小さな男は、じっとこちらを見つめていた。
テレビで見た顔とは少し様子が違っていた。
被害者を想うと悪感情が湧き上がるが、あくまで平静を装って。

問いたい。
東京の真ん中で、山彦は聞こえるのか。

3/31/2026, 11:36:26 AM

幸せに

幸せにおなりよ。ほんとに。

3/28/2026, 3:48:19 PM

見つめられると

数学教師が何やら複雑そうな公式を書き連ねていく時に聞こえる心地よいリズムは、一つ前の授業から妙に耳に残っているバルチック艦隊という単語から、仮想の戦闘風景を夢想させる。
弾丸の雨の中、軍服を着た髭のおじさんたちが何やら頑張っている。東郷平八郎だっけ?大塩平八郎だっけ?どっちか忘れたけど、なんかそんな感じだった。
頭を下さないことがバレないコツなのだが、今日ばかりは耐えられそうにない。惰性で過ごして時計を見ていなかった、昨晩の夜更かしが悔やまれる。
教室には微かにバーベキューソースの香りが漂っていた。チョークの音が止んだ。

私はまだ寝ていません。
私は無実です。
はいすみませんおきます。起きますから。

3/27/2026, 9:41:06 AM

ないものねだり

クランベリー畑のある丘の上で、金切り声を上げる人が一人。
フランシス・ベーコンの絵画を抱えながら、床に落ちた抜け毛を一本一本、愛おしそうに拾い集める人が一人。
通勤電車を待っている時に、ふと線路に飛び出てみた人が一人。
哲人は仙人に銃を向け、神は我が子に牙を向け。湾曲したルービックキューブを、夜更かししながら、解きながら。
本を読む。
ルービックキューブの解き方は知らない。

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