太陽のような
ふと立ち寄った神社には、縁結びの御利益があるらしい。入り口で飛蝗の交尾を見たから、強ち嘘ではないのかもしれない。
平日だというのに、結構な人が並んでいた。カップルで腕を組んでる人もいれば、そうでない人も。十字架のネックレスをした老婆も、そこに並んでいた。
本堂の屋根には、夕陽が反射していた。
傍に佇む摂社は誰にも見向きもされず、刈りきれていない雑草だけが、そちらに首を垂れていた。
飛蝗がまた一匹、足元に飛んできた。
恋御籤の結果は末吉だった。
0からの
アーチェリーに、憧れていた。
しんと静まり返った空間で、たった一人で立つ感覚は、これまで触れたことがないような澄んだ清水が、すうっと体内を通り過ぎていくようだった。吐いた息が白く濁って、前が見えないような錯覚。実際そこまで寒くはないし、白い息は吐いてない。それなのに。
弓懸が冷たい。少し、肌寒い。
足袋から伝わる温度が、体を強張らせる。これではいけないと思いながらも、緊張も相まっていうことを聞かない。
足踏み、胴作り、弓構え、打起こし、引き分け。会。
一つ一つ、動作を頭で唱えながら弓を引く。弦輪がギリギリと音を立てながら弓に力を伝えて、左手の親指の付け根に乗せた新品の矢に、より一層の緊張を与える。
胸を張る。胸を張る。背中は逸らさないで。
弓を持つ手をほんの心持ち上に上げる。そっと、的を見つめる。
離れ。
残心。
大丈夫。あと三回チャンスは残ってる。
同情
千羽鶴が一羽、また一羽と飛び立っていく。次は何色の鶴が飛んでいくのだろうかと、そんなことを考えるのが、唯一の、日々の楽しみになっていた。
病室は白く、広い個室だった。
なんのためにあるのかわからないような、謎の軌道を描くカーテンレールを、目で、追った。
窓から見える、雑居ビルを眺めた。鶴と一瞬、目が合った。
リノリウムの床と、スリッパのツルツルしたようなザラザラしたような、なんともいえない感触は、いまだに慣れないけれど、高校の廊下よりかは、いくらかマシに感じる。
今はちょうど四時間目。時間だけが過ぎていく。来客用の椅子に座ってみたけど、いつもと違う景色が見えるかと思ったけど、変わらない。だめだね。薬のせいで、頭が働いてないや。
誰かが手紙をくれたから。先生が、千羽鶴を持ってきたから、千羽鶴が一枚、また一枚と崩れ落ちていく。明日の起きた時に、何色の鶴が床に落ちているのだろうかと、そんなことを考えるのが、唯一の、日々の楽しみに、なっていた。
首に巻いた縄の跡は消えたけど、学校には、まだ行きたくないから。
千羽鶴が一羽、また一羽と飛び立っていく。次は何色の鶴が飛んでいくのだろうかと、そんなことを考えるのが、唯一の、日々の楽しみになっていた。
眠くなってきたな。
枯葉
大学生になったので、家を出てやった。カブトムシを買ってやった。近所の店に売ってた幼虫は、五匹で千円だった。
一限目だけの日。なんとなくサボってみた日。水槽の中の腐葉土が、少しだけ動いたのが見えた。
お気に入り
ふと顔を上げてみると、時計は深夜一時を示している。
栞を本に挟んで閉じる。何気なくスマホを手に取る。
ホーム画面に2件のメッセージ表示があって、開いて見てみると本の感想が書いてあった。極力ネタバレはしないように気をつけてるんだなと、そう感じさせる内容だった。
ストーカーの存在なんてまだ知らなかったから、結構なネタバレ喰らったなと。苦笑いをしながら、今読んでる場面とその感想を書いた。最後に口を膨らませた、怒ってる風なスタンプを送りつけた。相手はもう寝ているだろう。電気を消そう。
電気は消した。明日もまた起きないといけないのに。また本を開いている。文字の羅列が、淡い。
物語を堰き止めていた紫色の押し花がされた栞を、横に避けておく。花の種類も、花言葉もわからない。でも綺麗な花だということはわかる。
小さな栞が、ベッドに備え付けられた読書灯のオレンジ色に塗られる。花は黒くくすんで見えた。
花の栞はプレゼントされた物だ。プレゼントとは違うか。交換した物。
私が使ってた鶴の栞に追いつく為に、もう少しだけ読んでおこう。