「こんな夢を見た」から始まる小説

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2/26/2026, 2:43:03 PM

こんな夢を見た。私の身体ぴったりの箱に私が入っている。通りで身体が凝るはずだ。体勢を変えようともぞもぞしていると、箱の外側から女性の合成音声のアナウンスが聞こえた。
「君は今、箱の中に閉じ込められている。その箱から出なくてはいけない。タイムリミットは五分。過ぎると、外から箱を開けられ君は箱の中の毒が入った噴霧器が作動し死ぬ」
開けられると死ぬ?どうやって出ろというのか。
「だがこれでは理不尽。この問いに答えられたら、噴霧器を解除して箱から出してやる。失敗したらそのまま噴霧器を作動されて毒で君は死ぬ。では問題。『この箱の中にいる君は外から見た時生きているのか、死んでいるのか答えよ』」
これはシュレーディンガーの猫だろう。思考実験の一つで答えは…。答えを口に出そうとして、何かが引っかかって口を噤む。いや、前提が違う。この問題は箱の外側に私がいないと成立しない。でも私は一人しかいないし箱の中にいる、つまり問題として成立していない。端から私を箱から出すつもりなんかないのだ。
「あと三分」
問題の矛盾を指摘したらどうなるんだろう。試しに質問してみるか。
「あの、私は箱の中にいるので、私が箱の外から見た時私の生死はどうなっているかだと答えられないのですが」
「『答えられない』、それが君の答えか?」
無機質な合成音声が響く。
「いえ、違います」
合っているような気もするが、間違えると即死なので否定する。どうやら会話しているのはロボットか何からしく融通が効かない。困っていると、合成音声が残り時間を通告してくる。急かされているようで考えがまとまらない。時間切れも不正解も似たようなものだ。私は半ばヤケになって今思いついた答えを叫ぶ。
「答えは生きている!私と同じ大きさの箱に生きている自覚がある私が入っており、その箱もまた私だからだ!」
残り時間を通告していた合成音声が急に途切れた。不正解だったかと身体を強張らせるがいつまで経っても苦しくなる気配はない。正解だったのかも、とホッと息をついた。箱を外してもらうために待っていると、ふと身体に違和感を覚えた。先ほどまで自由が効かなかった身体が動くようになっているのだ。ガコンガコンと箱を左右に揺らしながら器用に移動する。まるで元から自分の身体だったかのように。どうやら、あの答えで私と箱は一体化してしまったようだ。これなら毒で死んだ方がマシだったかもしれない。私は箱の中でため息をついた。

2/26/2026, 3:52:22 AM

こんな夢を見た。起床したら、妙に体と気分が重たい。重い体を引きずりながらカーテンを開けると、物憂げな灰色の空と丘の下の町が見えた。空がこんな調子なら、町の皆も寝込んでいて店は開いてないだろう。今日の買い出しは諦めて一日寝ていよう。今日の予定を決め、洗面所へと向かう。顔を洗い鏡を見ると、自分の顔は空と同じ灰色だった。酷い顔色だ。換気をすればましになるかもしれない。窓を開けても気分と顔色は優れなかった。困って棚から金平糖入りの大きな瓶を取り出し、一つ口に放り入れる。少し気分が良くなった気がする。金平糖の甘さを味わっていると、何だか急に表が騒がしくなってきた。見ると、灰色の顔色の人々が私の家の前に列を成している。丘の下の町の人たちだ。
「どうしました?」
「風の噂で聴いたんだが、あんた『あれ』を持っているんだろ?少しでいいから分けてくれないか?気分が悪くて商売どころじゃないんだ。買い物来てくれたらサービスするからさ」
風の噂?もしかして換気した時に出ていった風が言いふらしたのだろうか。そんなこと今はどうでもいい。私は町の人たちに一粒ずつ金平糖を渡すことにした。幸い、大きな瓶にたっぷりと入っていたので、最後尾に並んでいた少年に最後の一粒を渡すことが出来た。しかし、少年は不満そうに言った。
「これじゃ足りないよ」
「足りてるよ、みんな一粒ずつなんだから」
「そうじゃなくて、空の分がないんだよ」
少年は空を指差した。
「そんな事言われても、君の一粒でおしまいだよ」
そう言った途端どこからか突風が吹き、頭上から悲鳴が聞こえた。見上げると街の人たちが空高く舞い上がり、それから少年も悲鳴を上げながら灰色の空へ消えていった。少年が見えなくなる頃には灰色の空は青空になり、誰もいなくなった町だけが残された。