どうして(オリジナル)
大きい荷物を両手で抱え、社内の狭い廊下をえっちらおっちら歩いている時だった。
後ろから若手の男性社員が、
「手伝いますよ」
と手を伸ばして、私の荷物を引き受けてくれた。
そして前を、スタスタと歩いていく。
彼は最近よくこうして荷物を運んでくれる。
私は横幅が広く、力もある女なので、こういう荷運びの時に誰も手伝ってくれない傾向にあったので、彼がこの廊下で会うたびにこうして助けてくれる事に、ときめきを感じていた。
今日、ついに勇気を出して聞いてみた。
「どうして手伝ってくれるの?」
彼は振り向いて目を丸くして、
「通路塞いでて通れないから」
ですよね。
夢を見てたい(914.6)
自分の夢ではないが、夢を見てたいシチュエーションを考えてみた。
売れる芸能人になりたい。
けれど、マスコミに嗅ぎ回られたりアンチにたたかれたりはしたくない。
大金持ちになりたい。
けれど、遠い親類や反社の類に群がられたくない。
宝くじに当たって欲しい。
けれど、億単位で当たると命の危険を感じるから怖い。
憧れのあの人と結ばれたい。
けれど、相応しくないと周りからたたかれたり、付き合って幻滅されて、自身の性癖や悪口を広められたくはない。
結論「夢を見てたい」は、良い事だけ起こって欲しい、そうだったら良いなということ、あるいは、そうなった自分を妄想して楽しみたい、という事でしょうか。
すぐにマイナスの事を考えてしまうのは私の悪い癖。
私は何を夢見ていたいかなぁ。
相手のある夢はいつか覚めますからね。
夢は夢のままで。
ずっとこのまま(オリジナル)
老化を止める新薬が開発された。
若返りはならず、成長も止まらず、あくまで「老化」の「進行」を止めるものである。
量産が難しく、極秘裏に生産が進められてきた。
一部の富裕層と発見者界隈でのみ流通していたが、情報流出し、またたく間に全世界に広まった。
富裕層を強盗団が襲ったり、研究所にデモ隊が突入したり、様々な事件が勃発した結果、独占されていた製薬に他企業も参入するようになり、高額とはいえ、少しずつ一般に流通するようになってきた。
そして、そんな時、自分は60歳。
シワも白髪もあり、身体の節々も痛い。
若返りはしないので、薬が買えたとて、60歳で止まるわけである。
これ以上悪くならないのは良いが、とはいえ、考えてしまう。
20歳の人は良いな、と。
彼、彼女らは、20歳の見た目のまま、100歳まで生きられるわけだ。
新薬がもう少し早く開発されていたらと思わずにはいられない。
そして、それは誰しもが考えてしまう事で。
高額な薬を買うために悪い事に手を染める人間が増加。年齢間の溝が深まり、強盗や窃盗が日常化し、殺人も増えた。
そして、生き延びて70歳。
年金では薬を買う余裕はなく、買ったら寿命までの生活が立ち行かなくなる。生活保護はすでに同様の事案が増えて破綻しており、もらえるものではなくなっていた。
30年ほどのち、ついに若返りの薬が発明された。
永遠の命を得られるわけである。
飲む? or 飲まない?
寒さが身に染みて(914.6)
昨今のいじめ問題に心を痛めている。
私は子供の頃から先生側の人間で、親や先生から褒められたくて良い子をしていたと思う。
そういう意味で、先生の言う事を聞かない子や掃除をサボる子に怒っていた時期はある。徒党は組まなかったし、非力なので暴力を振るえるわけでもなく、いじめにはなっていないと思う。主観の問題だから「絶対」はないけれど、たぶん。
いじめられっ子や障害者のお世話もしていたけれど、彼らを可哀想と下に見ていた自分に気がついて、己が決して善意ばかりの人間ではないと知った時の絶望感といったらなかったけれど、今では気づけて良かったと思う。
当時から、子分扱いして盗みをさせる子とかいたけれど、本当にそういうのが嫌で仕方ない。
そういうものを、大人になって武勇伝として語る人達が嫌いで仕方ない。
暴力を是とし、それにヤジを飛ばして面白がるなど、人間性を疑ってしまう。
反省なんてしてないよね?
表面上謝って、未成年だから許されるって、後で笑うんだろう?
正義の方に味方が少なく、悪の側につく人間が多いのが本当に怖い。
警察が動いて罰せられたとしても、人格矯正がうまくいかず、出所後に逆恨みで復讐する未来しか見えない。
怖い。
どうしたら良いんだろう。
世の中の寒さが身に染みる、今日この頃。
20歳(オリジナル)
私は化粧が上手くない。
いつもファンデーションを塗って眉を整える程度だ。
なので、成人式で着物の着付けとともに髪をアップにし、化粧してもらうのを楽しみにしていた。
人生初のガッツリ化粧。
プロの化粧を今後の参考にしようと。
近所の美容院で全てやってもらったのだが、終わって鏡を見た瞬間、愕然とした。
何だこのおばさんは。
頭上にアップした髪は昭和のお団子のようだし、普段あげない前髪を上げたせいで、面長の顔が強調されていて茄子みたいだ。
濃い化粧も、太い眉が田舎者くさいし、一重の瞼に塗られたアイシャドウは目が腫れぼったく見えるし、チークは濃くて漫画か日本人形みたいだし、濃い口紅は唇をやたら浮き立たせているし。
自分が見慣れないだけで、これが普通なのだろうか?
これで成人式に出席したが、ショックな事に、友人達は誰も「似合わない化粧してるね」とか「いつもの方が良いね」とか、私が期待したような事は、何も言ってくれなかった。
自分は自分をそこそこ可愛いんじゃないかと思っていたのだが、そうでもないのだと初めて理解した20歳の出来事であった。