「あぁ、もうすぐ私は死ぬのだな。」
心の中で呟いてみる。
口に出すことができていたとしても届ける相手が居ないから、気にする必要もないだろう。
今際の際のうわ言だ。良かったら聞いてくれ。
走馬灯というものはとても悪趣味らしい。
小学生の頃、クラスの元気な子が好きだったとか、
中学生の頃はクラスの隅で本を読んでる子がとても気になっていたとか、
高校生の頃にミニスカにしていた子が周りの子よりも色気づいて見えていたなだとか、しょうもない事ばかりが脳裏を掠めてゆく。
走馬灯って生き残る方法を探すために見るのではなかったのかと考える。
先程から私は好きだった子達の事ばかりを思い出す。
絶対に助からないと体が分かっているから、せめて最期は楽しかった記憶で人生を締めくくろうとしているのだろうか。本当に楽しかったのだろうか。
好きになった人に告白すらしなかったのに。
心の中で呟く気力すら無くなってきてしまった。
刃物の刺さった体は5番目に好きだった子の事を思い出した時にはに動かなくなっていた。
空しか入らない視界は7番目に好きだった子との出会いを思い出した時に私の世界から消えていた。
雨と血と花の匂いが混ざった空気は2人ぐらい前に分からなくなった。
ん?花の匂い?
私には渡す人は居ないはずだが。
親も祖父母もまだ生きている。
親達より先に死ぬなんてとんだバカ息子だな。
いや、そんな事はどうでもいい。頑張って今日の予定を思い出す。
「そうだったな」
「私はやっと行動に移したんだったな」
元気だったあの子は卒業式に告白され、嬉しさのあまり泣き崩れていた。
おとなしかったあの子は想い人がいた。
色っぽいあの子は彼氏がいなかった時が無かった。
私は好きな人がことごとく変わった。
変わる度に恋愛好きの彼女に泣きながら相談していた。彼女はそんな私の話を嫌な顔ひとつせず親身に聞いてくれた。
彼女の声はよく通る。
『…ぇ!ねぇ!起きてよ!』
今もそうだ。
代わり映えの無い雨音と人々のざわめきを拾うことを怠り始めた耳にもよく聞こえる。
彼女の声は、近くに聞こえる気がするサイレンよりもよく通る。
今日は告白をする日だった。
彼女に恋愛相談という体で呼び出して、
今までの相談で、『自分だったら〜』と聞いた彼女の好きな花を渡して好きだと伝える。
うまくいったのであれば、彼女の好きなフレンチを食べに行くつもりだった。
でも叶えられない。鼓膜は仕事を放棄した。
もう時間は無い。
見えない視界が白み始める。
ふと脳裏に浮かぶ。
そういえば
彼女はフレンチよりイタリアンが好きだったな。
【脳裏】