モコモコモコモコ。
コート、帽子、マフラー、手袋、ブーツ。
シルエットが倍になるくらい膨らんだ体が丸くなってしゃがんでいる。
「動きにくいでしょ、ソレ」
「慣れりゃどってことないよ」
「そうは見えねえけど」
「寒さと動きにくさじゃ寒さの方がこたえるんだよ、この歳になると」
「アンタいっつもお洒落なのに」
「そうも言ってられなくなるんだよ」
「じゃあとっとと仕事終わらせて帰ろかね」
「お前がコーヒー奢ってくれたら少しは動けると思うけどね」
「いつもと逆だな、これじゃ」
「あはは、ホントだ」
立ち上がった彼はやっぱり普段の倍膨らんでいて。
その格好に思わず笑うと、彼は不思議そうな顔をした。
END
「寒さが身に染みて」
成人式は出なかった。
そして出なくても何ら不都合なことは起きなかった。
人生なんてそんなもの、と何かを悟った。
そう、だいたいのことは「そんなもの」で済む。
20歳なんて、人生100年時代で言えばたったの五分の一。健康であればその五倍も生きることになる。
だから少し力を抜いて、生きることをあまり重く考え過ぎないことも大切だと思うよ。
END
「20歳」
闇に浮かぶ光の船は 誰を乗せているのでしょう
昏い海を独りで漂い 誰の元へと行くのでしょう
月の形のその船を 導くものは何もなく
傾き揺れる三日月は 誰にも見られず 沈むでしょう
沈んだ先に船を待つ 愛しい誰かはいるのでしょうか
光り輝く月の船は 誰にも見られず消えました
END
「三日月」
赤、青、黒、緑、藤、銀、白、桃·····色とりどり。
黒、黒、くろ、くろ、クロ、堕ちていく先の闇。
白、白、シロ、シロ、しろ、塗り潰した美しい世界。
星のように、宝石のように。
目を奪う色とりどりの輝くものたち。
闇でさえ人を強く引き寄せて離さない。
もし、その色に染まってしまったら、自分はどうなってしまうのだろう?
END
「色とりどり」
「あったかい部屋で見るのが好きなんだよね」
「年寄り」
「年寄りだよ」
「雪見風呂が売りの旅館に来て部屋風呂でいいってどういう了見だよ」
「だから寒いの嫌いなんだってば。雪ならあったかい部屋で熱燗でも飲みながら窓越しに見れればいいんだよ、私は」
「風情がねえなぁ」
「なんとでも言って。相手が年寄りだって分かってて誘ったのはそっちでしょうに」
「そうなんだよなぁ」
「わっ·····」
「惚れた弱味だよもう。露天風呂は諦めた」
「あはは」
「その代わり、春になったら覚えてろよ」
「年寄りだから忘れた~」
「もう!」
END
「雪」