サファイアが好きだ。
そう言ったら高くて買えませんよと苦笑された。
色のついた石が好きなんだ。その中でも特に青が綺麗なサファイアが好きで·····。
あぁ、だから私の目をじっと覗き込む癖があるんですね、あなた。――どうやら見透かされていたらしい。
君の全てが好ましいけど、確かにその青に惹かれてしまうのは事実だよ。
天上の青、真実を明かす青、空と海を染める青――。
至上の宝石が私を射抜く。
寒色とも言われる青が、何故か私には熱いものに感じられて·····。
どうしました?
なんでもないよ。
そういえば、青は高温の炎の色でもあったな、などと思い出していた。
END
「青い青い」
正直、あんまり好きな歌手じゃなかった。
いわゆる正統派アイドル、ぶりっ子という言葉、フリルやレースたっぷりの衣装。どれも何故かカンに触って、男にチヤホヤされてるイメージがあって、私は断然明菜派だった。
カッコイイ明菜、可愛い聖子。
こんなイメージだった。
でも歳を重ねて分かるようになったのは、彼女の歌も素敵な歌が多くて、インタビューなんかを見るとすごくしっかりしてるということ。
あの頃は多分、売れるために作られたイメージというのもあったのだろう。
今はどちらも好きな歌手だ。
END
「sweet memories」
――共に去りぬ、しか思い浮かばなかった(笑)。
昔は「〝風と共に去りぬ〟の去り〝ぬ〟って何??」って思ってたなぁ。
END
「風と」
写真を撮っていいかと聞かれた。
あまり好きでは無いと答えると、同居人は「分かった」と拍子抜けするほどあっさり引き下がった。
ソファに寝転がったままスマホを弄る姿はいつもと何ら変わらない。だがなんとなく腑に落ちないものを感じて、彼に理由を聞いてみた。
「私達が一緒に暮らし始めて今日で一年だなって思って。でもあなたが嫌ならいいよ」
スマホに目を落としたまま、そんな事を言う。
「·····」
私は無言で寝室に向かいクローゼットから二人分の上着を出してリビングに戻ると、一枚をソファに転がったままの同居人に放り投げた。
「っわ、·····なに?」
「行くぞ。支度しろ」
「どこに?」
「いいから」
慌てて立ち上がる彼の表情に、不満気な様子は無い。
二人で家を出ると予想外に冷たい風が上着の裾をはためかせ、思わず肩を竦める。春とは言え、夜はまだまだ冷える。
15分ほど歩いて辿り着いた市立図書館の裏庭は、あの日と同じ静寂に包まれていた。
「·····懐かしいね」
葉桜を見上げながら同居人が呟く。
あの日は雪のように淡い色をした花が満開だった。
今は濃い緑の葉が僅かな灯りにぼんやりと浮かび上がるだけだ。
「·····私はお前と違ってそういうのに疎いんだ」
「そういうの?」
つい言葉がぶっきらぼうになる。
「だから·····記念日とか、そういうのだ」
「私の誕生日は覚えてくれてたじゃないか」
「それはそうだが、本当はもっと色々な事を覚えておくべきなんだろう」
「忘れたわけじゃないだろう? 私みたいに記念だなんだっていちいち浮かれないだけで」
「浮かれたいんだ、本当は」
「――え?」
ああ、くそ。なんて言えばいいんだ。
「どうしたらいいか分からなかった。だから·····お前もこれからは「私が嫌ならいい」とか言わないでくれ」
淡い色の瞳が驚きに見開かれる。口元には微かな笑みが浮かんで、それを目にした瞬間、私の胸にもあたたかい何かが湧き上がるのを感じる。
「だからここに連れてきた? あなたと出会った図書館で、この木の下で写真を?」
私の腕を取り、葉桜の下に誘う同居人の嬉しそうな顔。向けられたスマホには、生い茂る緑を背に仏頂面の私と微笑む彼。
「撮っていいの?」
「――ああ」
小さく響くシャッター音。
スマホの中に刻まれる、軌跡。
END
「軌跡」
おはぎ、ゴーヤ、焼き魚、お茶漬け、つぶあん、大判焼き。
食べられないわけじゃないけど自分から選んで食べたいと思わない、好きになれない食べ物。
チョコレート、にんじん、焼肉、おにぎり、こしあん、たい焼き、アイスクリーム。
食べ過ぎたら良くないことは分かってるけど、つい食べちゃう嫌いになれない食べ物。
こんな風に選り好み出来るのは、幸せな事なんだろうなぁ。
END
「好きになれない、嫌いになれない」