何が好き?
チョコレート、ピザ、ラーメン?
食べ物じゃなくてもいいよ。
読書、スポーツ観戦、ロックバンド、観劇。
色々あるよね。
どこで買ってる?
スーパー、ネット通販、まぁそんなところだよね。
じゃあさ、例えばそのチョコレート。あなたのもとへ届くまでにどれだけの人の手を経て、どれだけの距離を旅して、どれだけの工程を終えてチョコレートになってるか知ってる?
分かんないよね。
私も分かんない。てか、分かんなかった。で、調べてみたら気の遠くなるような長い距離と、いくつもの工程と、それに関わる人達がいた。
すごいよね。
一人で生きてるなんて、嘯いてる人っているけど、誰とも関わらずに生きられる人なんて、いないんだよ。
私が今チョコレートを食べられるのも、おせんべいを買えるのも、本を読めるのも、遠くにいる見ず知らずの誰かのお陰なんだよね。
すごいなぁ。
END
「あなたのもとへ」
いつもいつも、突然だった。
腕を引く、髪を掴む、名を叫ぶ。
力任せの腕と鋭い言葉。
与えられたのはそれだけだった。
ごく稀に与えられた賞賛は、およそ子供に向けるものとは思えない、欲得ずくのものだった。
もっともそれに気付いたのも、ずっと後のことだったが。
触れるか触れないかの微かな動き。
指が重なったのだと分かるのに数瞬かかった。
「もう少し、触れてもいいかな?」
許可を問われることなど初めてだった。
その初めての感覚は、私の胸に不思議なあたたかさをもたらした。
END
「そっと」
この歳になってまだ海外に行ったことがない。
『世界 ふ〇ぎ発見』や『クレイジー〇ャー二ー』、『世界はほ〇いモノにあふれてる』といった番組が大好きな割に、海を越えたことがない。
マチュピチュ、イースター島、ノイシュバンシュタイン城、ピラミッド。
ナイアガラの滝、ウユニ塩湖、南極大陸。
ヴェルサイユ宮殿、ドゴン族の祭、リオのカーニバル·····。
旅行ガイドや紀行モノのエッセイ、写真集を読み漁りながら、「実際に行ったらこんな絶景見れないんだろうな。観光客多いだろうし」などと皮肉ぶってみるけれど。本当は、踏み出す勇気も、お金を貯める根気も無いだけだ。
現地に行って自分の目で見てみたら、きっとまるで違う感覚になるのだろう。
音や匂い、手触り。そういったものから伝わる感触は、きっと本や映像で触れる以上の何かを伝えてくれる。分かっているのだ。そんな事は。
写真で見たあの街の、あの遺跡の、あの草原の。
写真では絶対に分からない生の感覚。
いつかそれらを感じられる日が来るのだろうか。
それこそ、まだ見ぬ景色だ。
END
「まだ見ぬ景色」
カエルを吐き出した夢とか、前の職場でまだ仕事をしてる夢とか、犬の糞をかけられた夢とか、変な夢ばっかり記憶に残ってるからあんまり「つづきを見たい」って思った事がない(笑)。
覚えてない夢の方こそ、つづきが見たいと思える内容だったかもしれない。
END
「あの夢のつづきを」
「あたたかいね」
「雪が降ってるが」
「だから、だよ。ストーブとか、こたつとか、コーヒーとか、そういうののあたたかさが身に染みる」
「歳を取ったんじゃないか」
「·····あなたに言われたくないよ」
「ストーブとかこたつとか、使わずに済むならそれに越したことは無いだろう」
「そうだけど」
「――」
「こうやって一緒にいる口実にしたら、駄目かな?」
「·····好きにしろ」
「そうする」
本当は、自分こそが寒さを口実にしようとしていたなんて、絶対に言ってやらない。
END
「あたたかいね」