水平線を金色に染めて、太陽が顔を出す。
輪郭すら分からなかった人や車が、明るくなるにつれ服の色まで分かるほどになってきた。
意外と近くに他人がいた事に僅かにたじろぎ、後ずさる。肩がぶつかった方を振り返ると、同居人が晴れやかな表情で昇る朝日を見つめていた。
「――」
何の感慨も湧かない。
歓声をあげる恋人達。
手を合わせる老人に、シャッターを切る男。
彼等は広がっていく金色の光に心を動かされている。
この国ではあの光に神を見出す者もいるだろう。
そこまで大きな動きでなくても、何らかの波を起こす力があの光にはあるのだ。――少なくとも、彼等には。
「綺麗だね」
同居人がコーヒーを飲みながら小さく呟いた。
「そうだな」
彼が言うならそうなのだろう。それ以上何の感慨も湧かない。ここにいる何人があの太陽を本当に美しいと思っているのか。
「綺麗だけど·····」
彼が振り向く。
太陽を背にしたせいか、顔が見えない。
「それだけだ」
車に戻る彼の足取りは、どこか軽やかで。
何かに別れを告げたのだと、私は思った。
END
「日の出」
仕事はとりあえず、今進んでいる話が良い方向に転がるように頑張りたい。
プライベートは年一のイベントに行けるといいな、というのと家族間でゴタゴタが起きないように祈りたい。
あとは旅行行きたいなぁ。
これ、抱負じゃなくてお願い、だな。
END
「今年の抱負」
いつもとまるで違う景色。
参道の両脇に並ぶ屋台に、行き交う参拝客。
人々が吐く白い息が、夜気の中に消えていく。
ワンコインのコーヒーを手渡しながら、「良いお年を」などと声をかけていると、不意に鐘の音が聞こえてきた。
年明けが近い。
道行く人々の足も心無しか早くなっている。
寒い中参拝に向かう人々に、コーヒーは飛ぶように売れていく。積んであった紙コップが無くなりそうになったので、裏手に向かい取りに行く。
パートナーはコーヒーマシンの前から動かない。
睨みつけるような表情で、一滴一滴落ちていく琥珀色の雫を見つめている。その厳しい横顔に小さく笑いながら、紙コップを抱えて彼の横を通り過ぎようとした、その時だった。
「――」
名を呼ばれ、唐突に唇を重ねられた。
それは触れるだけの、本当に些細なもので。
「すいませーん」
客の呼ぶ声で我に返り、慌ててカウンターに向かう。
無言でパートナーが注いだコーヒーを笑顔で手渡しながら、気持ちは全く上の空で。
営業時間が終わるまで、唇に触れた熱は燻ったままだった。
遠くで鐘の音が響いている。
END
「新年」
迎えられましたか?
「良いお年を」
個人的には泣きたくなるほど大変な事もなかったし、飛び上がるほど嬉しい事もなかった。
可もなく不可もなく。
来年はもう少し精神的にも体力的にも経済的にもゆとりがあるといいなと思う。
※1年間読んで下さった皆様ありがとうございました。
END
「1年間を振り返る」