好きだったものがふとした事が原因で嫌いになったり、一気に興味を無くしたりする事がある。
熱中した漫画、何度も聞いたアーティストの曲、よく喋ってた友達、好きでも嫌いでもないけど近くに存在するのが当たり前だったもの·····。
そういったものが、視界に入る事すら不快になって、嫌悪感を抱いてしまう事がある。
理由は色々。
突然疎外感を感じる。それらより惹かれるものが出来た。相手の発言が受け入れ難いものだった·····etc。
こちらの心が変わってしまったのか、あちらの在り方が変わってしまったのか。どちらにせよ一度心が離れてしまったら、なかなか元には戻れない。
変わらないものはない、なんて。
大嘘だ。
END
「変わらないものはない」
クリぼっちとか何とか、相変わらず一人でいることを嘲笑する文化があるんだね。
一人でいようが誰かといようが、仕事していようが遊んでようが、ケーキを食べようが食べまいが、ツリーやリースを飾ろうがどうしようが、他人にどうこう言われる筋合いないだろうに。
多様性、とかいう癖にこういう時は少数派を下に見たり笑ったりするんだ。
なんだか、しょーもない。
END
「クリスマスの過ごし方」
血が繋がっていることに心の底から絶望した。
それでも生きていかなきゃならないと、期待しないことと諦めることを選んだ。
そんな夜。
END
「イブの夜」
名前は親からの最初のプレゼント。
何かで聞いたか、読んだか。
私の名前は祖父から一字を貰ったらしい。
私が生まれるだいぶ前に亡くなったという祖父。
顔も知らない、どんな人だったか分からない祖父。
そんな祖父の字を貰ったんだよ、と言われて、私はどんな顔をすれば良かったんだろう?
何度か祖父がどんな人だったか聞いてみたが、いまいちイメージが湧かなかった。
私はどんな顔をすれば良かったんだろう?
名前は親からの最初のプレゼント。
素直に喜べなかった私は、嫌な子供でした。
END
「プレゼント」
ゴミ箱から柚子の香りが漂ってくる。
昨日風呂に入れた柚子だろう。
ぶよぶよにふやけて、嫌な手触りになった果肉の一つを昨夜、渾身の力で握り潰した。
一つだけ醜く変形した柚子を見ても、妻は顔色一つ変えなかった。私が何をしようが興味無いのだろう。
ただ、季節の行事をきちんとやっているしっかりした私、という自己満足なのだ。
嫌いだからやめてくれ、と言ったところで彼女には何も響かない。無表情で、「そうですか」と言うだけが関の山だ。
「·····」
私達はなぜ結婚したのだろう?
もう遠い過去のことだから思い出せない。
妻を嫌っているわけではない。あちらも特段私を嫌っているわけではないと思う。
ただ、もう元には戻らないくらいに冷めきってしまって、その冷たさに耐えられなくなった。それだけだ。
ゴミ袋の口をきつく閉じて、柚子の匂いを閉じ込める。好きな香りではあったがもうこれはただのゴミだ。昼頃には収集車で更に潰されて、誰も嗅ぐことのない芳香を放つのだろう。
昨夜風呂に入っていた時の激しい感情は、いつの間にかなりをひそめている。
昨日が冬至だったという事は、今年もあと二週間足らずだ。
来年もまた私はぶよぶよにふやけた柚子に手を伸ばし、どうにもならない理不尽にため息をつく。
来年も再来年も、私達はきっと何も変わらない。
END
「ゆずの香り」