せつか

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11/19/2024, 1:12:53 PM

キャンドルで連想されるのはクリスマス、結婚式、アロマ。
これがローソクだとカ〇ヤマとかお墓参りとかお仏壇になって、ろうそくだと誕生日や百物語、防災グッズになる。

そして蝋燭·····。私はこの漢字の蝋燭という字に、とても不穏なものを感じる。薄暗い部屋に一つだけ灯り、ゆらゆら揺れる小さな炎。風も無いのに揺れる理由を何故かと考える――。
叫び声。何かを打擲する音。這いずる音。
私は布団を頭から被るとふるふると首を振って不穏な空気を押しやる。

楽しいことを考えよう。
キャンドルサービス。
キャンドル型のオーナメント。
流れるBGMはウェディングソングかクリスマスソング。新郎新婦か小さな子供か、とにかく主役がニコニコ笑ってて、私もそれを笑顔で見つめる。

電気が消えて、一瞬の静寂が訪れる。
真っ暗な部屋。
風も無いのに〝蝋燭〟の炎が揺れる。
――あ。しまった。
なんて、思ってしまったのが間違いだった。

真っ暗な闇の中。
振り返ると真っ赤な口を開けた女が走り去っていく。
ザザザザザ。
それはおよそ、人が発する音でははかった。


なんて。
楽しいことを考えてたのに、ホラーになっちゃった。


END



「キャンドル」

11/18/2024, 2:53:06 PM

保育園、小学校、中学校、高校、専門学校、職場。
それぞれに思い出すことはある。
思い出すことはあるけど、ハッキリ言って思い出したくない事の方が多い。
友人や先生の顔はぼんやりとしか浮かばないのに、その時の状況や言葉や、音、匂いなんかは何故かはっきり覚えている。
どれもこれも不快で、うるさくて、臭くて、思い出しただけで嘔吐きそうになる。

ふとしたきっかけでそれらを思い出してしまうと、頭の片隅や胸の奥にずっとそれがこびりついて、数日は離れない。

せめて一つくらい、いい思い出があればいいのに。


END



「たくさんの思い出」

11/17/2024, 2:41:12 PM

冬になったらこたつを出そう。
冷凍庫にアイスクリームを常備して、雪が降ったら二人で食べよう。

ちらちら落ちる雪を窓越しに見ながら、温かいこたつに入って少し高いアイスクリームを二人で食べる。
私はチョコ、あなたはバニラ。
一口ずつ交換して、クリスマスはどう過ごすか話をしよう。

どこかに出かけてもいいし、家でゆっくり過ごしてもいい。小さなクリスマスツリーを買ってきて、二人でオーナメントを飾ろう。

少しずつ、少しずつ。
二人でやることを増やしていって、殺風景だった家に共有のものを、無くしたくないものを増やしていこう。
そうして長い時間をかけて、ドラマチックでも何でもない人生を、かけがえのないものにしていこう。

そう言うと、「あぁ」とぶっきらぼうにあなたは答えた。


END


「冬になったら」

11/16/2024, 3:00:19 PM

離れていても、心は繋がっている。
そう思えたらどんなにいいか。
最初はそう信じて強くいられた。
いつか再会出来ると信じて。
いつか再び笑える日を夢見て。

でも、会えない時間が長くなればなるほど、強い思いは磨り減っていく。心の繋がりを疑うわけじゃない。
再会出来る日を信じなくなったわけじゃない。
でも、それらを強く信じ続けるには、時間が経ち過ぎていて。

強く凝り固まっていた心は、ふとしたきっかけで絵の具のように溶けていく。
「元気でさえいてくれたら」
「幸せでさえいてくれたら」

隣にいるのが私じゃなくても、あなたの一番が私じゃなくても、それでいい。


END


「はなればなれ」




※1年休まず続ける事が出来ました。
読んで下さっている皆様、ありがとうございます。

11/16/2024, 12:31:15 AM

「この子ください」
「前の子は元気ですか?」
「おっきくなりましたよー。もう走り回って大変」
「この子はおっとりしてるから、前の子と上手くやれるかなぁ」
「少しずつ慣らしてきますから大丈夫ですよー」
「大切にしてくださいね」

◆◆◆

店の裏には小さな小さな石碑がある。
店長は時々その前で手を合わせてじっと目を閉じている。

一度聞いた事がある。
「あのお客さん、一ヶ月前も子猫買っていきませんでした?」
「·····うん」
「いいんですか?」
「大事にしてるって言ってるし、餌やケア用品もこまめに買ってくれるし」
――嘘だ。
多分前の子は捨てられたか、もう死んじゃってる。
あの人は失恋するたび子猫を買ってる。私が数え始めてもう六回。六匹も猫を飼ってるとはとても思えない。
「決めつけちゃ駄目だよ」
店長が言う。
「飼えなくなったとしてもちゃんと譲渡してるかもしれないし、本当に大切にしていても死なせちゃった可能性もあるし。僕達がそれ以上追求することは出来ないでしょ?」
「それはそうですけど·····」
「それに·····」
「それに?」
店長は少し口を噤んで私を見つめた。
言うか言うまいか、迷っているようだった。

「あの人自身、子猫みたいなものだから」
買われて、捨てられて、また買われて――。
そう言った店長の横顔は、泣いてるみたいに見えた。

◆◆◆

次の日の朝、石碑の前に小さな花が供えてあった。


END



「子猫」

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