「この子ください」
「前の子は元気ですか?」
「おっきくなりましたよー。もう走り回って大変」
「この子はおっとりしてるから、前の子と上手くやれるかなぁ」
「少しずつ慣らしてきますから大丈夫ですよー」
「大切にしてくださいね」
◆◆◆
店の裏には小さな小さな石碑がある。
店長は時々その前で手を合わせてじっと目を閉じている。
一度聞いた事がある。
「あのお客さん、一ヶ月前も子猫買っていきませんでした?」
「·····うん」
「いいんですか?」
「大事にしてるって言ってるし、餌やケア用品もこまめに買ってくれるし」
――嘘だ。
多分前の子は捨てられたか、もう死んじゃってる。
あの人は失恋するたび子猫を買ってる。私が数え始めてもう六回。六匹も猫を飼ってるとはとても思えない。
「決めつけちゃ駄目だよ」
店長が言う。
「飼えなくなったとしてもちゃんと譲渡してるかもしれないし、本当に大切にしていても死なせちゃった可能性もあるし。僕達がそれ以上追求することは出来ないでしょ?」
「それはそうですけど·····」
「それに·····」
「それに?」
店長は少し口を噤んで私を見つめた。
言うか言うまいか、迷っているようだった。
「あの人自身、子猫みたいなものだから」
買われて、捨てられて、また買われて――。
そう言った店長の横顔は、泣いてるみたいに見えた。
◆◆◆
次の日の朝、石碑の前に小さな花が供えてあった。
END
「子猫」
11/16/2024, 12:31:15 AM