あれ欲しいこれ欲しいとか、
あれ食べたいここ行きたいとか、
あれしたいとかコレ見たいとか、
無条件で「いいよ」って言ってくれて、与えてくれる人いないかな、ってそういう叶うはずのない妄想に逃避したくなる時がある。
たまにはね。
END
「たまには」
「もう充分尽くして来たでしょう」
尽くしたって何? 尽くすとか尽くさないとかじゃない。お互いに支えあってきたんだよ。
「〇〇さんは〇〇さんの幸せを見つけて下さい」
私の幸せはその人といることだよ。幸せを取らないでよ。
「目が覚めても、貴女のことを覚えてないかもしれないんだよ?」
そんなこと分かってるよ。覚えてなくてもいいって、私も彼も言ったんだよ。
「きっと※※もそう思ってるわ」
思ってない。それはアナタがそう考えた方が楽だからでしょう? 私に後ろめたさを抱く必要なんてない。私がいたくて彼のそばにいるんだから。
◆◆◆
「何度も何度も言ってるのに、みんな分かってくれないんだよ」
ベッドの柵に寄りかかって呟く。
「意外にまつ毛長いんだね」
彼の顔を見ながらそう言って、直後に吹き出した。
「漫画みたいな台詞言っちゃった」
ピッ、ピッ、ピッ·····規則正しい音が聞こえる。
「食堂の裏に薔薇が咲いてたよ」
シュー、シュー。返事はこの音。
「お兄ちゃんでも、※※君でも、アナタでも、呼び方なんて何でもいいよね」
指先が一瞬動いたのを私は確かめる。
「話したいことも、やりたい事も、山ほどあるんだよ」
数え出したらキリがないくらい。
「ウサギ林檎の話もミカンの話もまたしようよ」
テーブルにあったミカンをひと房口に放り込む。
「ちょっとすっぱいな」
これはいつかの彼の台詞。
大好きな君に、尽きる事ない言葉の雨を降らせよう。
唇から、耳から、鼻から、全ての感覚で私の言葉を受け取って。
そうして目を覚ました君に、私はウサギ林檎を差し出すから。
本当に、大好きなんだよ。
END
「大好きな君に」
平飾りだったと思う。
お内裏様とお雛様がいて、台があって、桃と橘があって、あとは牛車と、なんて言うんだっけ、お膳みたいなの。それがあった。
綺麗なお顔してたって記憶はある。
保育園、小学校の頃はきちんと全部飾ってたと思う。
それが成長するに従ってだんだん手抜きになって、お内裏様とお雛様だけ並べて洋服ダンスの上に置いていたのが、最後には箱から出すことすらしなくなった。
あれから何年経ったのか。
箱はまだ押入れの奥にあると思う。
え? うん、ちょっと·····出すのは怖いかな。
END
「ひなまつり」
「パンドラの匣の最後に入ってたってやつ?」
「そう」
「最後に希望が入ってたからって、厄災を撒き散らした事を無かった事には出来ないよね」
「手厳しいなぁ」
「好奇心に負けて匣を開けなければ人間はもっと幸せに生きていけたかも知れないんでしょ? 最後に残った希望のお陰で人類は絶望することなく生きていけるのだ、って説教臭くて嫌い」
「仕方ないじゃんそーゆー話なんだから」
「神様って身勝手だ」
「神様嫌い?」
「嫌い。気紛れで、ご立派な事言いながら自分達は好き勝手やってる癖に、人間がちょっと過ちを犯すと天罰だ何だって滅ぼそうとするから」
「良かった」
「?」
「貴女みたいな人を探してた。貴女こそ私達のたった一つの希望。神と戦い、この世界を真の意味で人間の手に落としてくれる人」
「·····アンタは何?」
「よく分かってる筈でしょう?」
親友だと思ってた〝ソイツ〟からは、蝙蝠のような大きな翼と山羊の角。そして何にも似てない黒くて長い尻尾が生えていた。
退屈だった生が、ちょっとだけ楽しくなってきた。
END
「たった1つの希望」
食べたい寝たい飲みたい読みたい。
やめたい逃げたい拒否したい。
買いたい並べたい揃えたい。
捨てたい消したい直したい。
旅行に行きたい買い物したい。
推しがもっと評価されるようになって欲しい。
本がもっと安くなればいい。
全ての兵器が無力化すればいい。
人を傷付けた者には等しく報いがあればいい。
お金が欲しい。本が欲しい。
ぱっと思いつくだけでもこんなに。
日々の小さな欲望から、世界に対して願う事まで。
どれも欲望である事に間違いは無い。
人は欲望で出来ている。
世界は欲望で回ってる。
願い、ではなく欲、の方が、動く為のモチベーションは上がる気がする。
END
「欲望」