ソンヘ

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9/6/2023, 4:27:45 PM

時を告げる


鎌倉の小町通りから少し離れた線路沿いに、とても好きな古民家カフェがある。

外からだと一見カフェだと分からない外観の、その慎ましい佇まい、小さな店内からは中庭を臨む事ができる。晴れた日には、中庭に木漏れ日が差し込み、まるで田舎の祖母の家に帰ってきたかのような、そんな気持ちになる。

私はこの古民家カフェの、たっぷりのホイップとジャムと共に食べるスコーンがとても好きだ。熱々の紅茶とともに。

壁には柱時計が掛けられている。静かな空間に、胎動のように息づくコチコチという音、定時のボーン、ボーン、という音は、まるで長い眠りから目覚めた時の巨人のように、静かな空間を振動させ、その音を聞くたび、ハッと我に帰る。

時を告げるその音が広がるとき、それはただ時を知らせる合図なのではなく、時という目に見えない巨大な宇宙が広がる光景を、そっと胸の内に届けられているのかも知れない。

柱時計の音は、誰かと誰かの心も、音の広がりとともに繋げ、あるいは離し、違え、一つにしているのだろうか。告げられた時は、告げた音をどんな思いで見つめているのだろう。

時を告げる世界が見せてくれる、
過去と現在、神秘と邂逅、心の旅と冒険。
あわいの時。
刹那の風が吹く。



ソンへ






9/5/2023, 10:50:51 PM


貝殻

幼稚園の頃、「皆んなで何かをする」「周りのお友達と仲良く遊ぶ」のが苦手だった私にとって、好きだった時間は、教室に置かれた絵本を読む時間。その時間は、心が躍るように幸せだった。今も覚えている一冊がある。貝殻が描かれた、とても素敵な絵本。内容もあらすじも覚えていないのだけれど、鮮やかな絵本で、主人公の女の子が、大きな貝殻の中に入っていく場面がとても印象的だったことは覚えている。私はこの絵本が大好きで、お昼ご飯の時間や、ことあるたびに、何度も何度も読み返していた。何というタイトルの絵本だったろう…。その絵本を読んでいる時の、あのときの幸せな気持ちは、今も、心の片隅にずっと残っている。読まれた本は、今も何処かで、誰かに読まれ、記憶を紡いでいるのだろう。貝殻という言葉に触れるたび、今も蘇る幼いあの日の記憶と心。



ソンへ