ソンヘ

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時を告げる


鎌倉の小町通りから少し離れた線路沿いに、とても好きな古民家カフェがある。

外からだと一見カフェだと分からない外観の、その慎ましい佇まい、小さな店内からは中庭を臨む事ができる。晴れた日には、中庭に木漏れ日が差し込み、まるで田舎の祖母の家に帰ってきたかのような、そんな気持ちになる。

私はこの古民家カフェの、たっぷりのホイップとジャムと共に食べるスコーンがとても好きだ。熱々の紅茶とともに。

壁には柱時計が掛けられている。静かな空間に、胎動のように息づくコチコチという音、定時のボーン、ボーン、という音は、まるで長い眠りから目覚めた時の巨人のように、静かな空間を振動させ、その音を聞くたび、ハッと我に帰る。

時を告げるその音が広がるとき、それはただ時を知らせる合図なのではなく、時という目に見えない巨大な宇宙が広がる光景を、そっと胸の内に届けられているのかも知れない。

柱時計の音は、誰かと誰かの心も、音の広がりとともに繋げ、あるいは離し、違え、一つにしているのだろうか。告げられた時は、告げた音をどんな思いで見つめているのだろう。

時を告げる世界が見せてくれる、
過去と現在、神秘と邂逅、心の旅と冒険。
あわいの時。
刹那の風が吹く。



ソンへ






9/6/2023, 4:27:45 PM