【上映】
「もうすぐだね」
隣の彼女はうきうきとした笑顔でスクリーンを見つめている。
映画というものは、どうしてこう、楽しさを掻き立ててくるのだろう。映画館特有のポップコーンが混じったような匂いと、広告が流れている間の期待感。全てが特別に感じられてしまう。
「わたしね、映画が終わった途端に周りがざわざわ動き出すのが好きなの」
「どうして?」
「この場にいるすべての人たちが、同じ時間を共有して同じ作品を見たっていうのがすごく嬉しくて。『面白かった』とか『あのシーン凄かった』とか。ああきっと今日の夜は映画の余韻に浸って、面白かったシーンとか思い出して眠るのかな、なんて思ったり」
彼女はとても嬉しそうに語ってくれた。
そう考えてみると、なんだかより一層わくわくしてきた。
同じ時を共有して、一つの作品を見て、誰もが同じ感情になるかはわからないけれど、確かに記憶には残り続ける。
「なんか凄いね」
「うん、なんかついつい考えちゃって。勝手に一人で嬉しくなってる」
そうこうしているうちに電気が消え、真っ暗な中に巨大なスクリーンが強い光を放っている。
とりあえず、この作品を余すことなく鑑賞しよう。
映画が始まった。
【耳に残る風景だった】
あなたと見た景色の〝音〟は全て記録しているけれど、あんなに鮮明に脳の中に刻まれた景色は初めてだった。
綺麗で、どこか懐かしくなるような。悲しさも寂しさも全てを兼ね備えたような。
私の目には決して映らないけれど、その光景を余すことなく堪能したくて、微かな音も立てないように注意を払って、その場中の音を全て吸い取った。
心地が良くて、視界は真っ暗なのにこんなにも穏やかな気持ちになれたのは、とても幸せだった。
とてもとても、嬉しかった。
あの風景は、今でも耳に残って生き続けている。
【cloudy】
今日は曇りです。
あなたの住む地は晴れですか?
ここは永遠に光の届かない場所ですから、あなたの地がとっても懐かしい。
もしも気が向いたら、また手紙を送ってほしいです。
あなたは光が届く場所にいるから、朝起きたら存分に日を浴びて、緑の木々と青空が作ってくれた新鮮な空気を取り込んで、足元がおろそかにならないように、気をつけて過ごしてください。
そうじゃないと、私がここにいる意味が、あなたがそこにいる意味が、なくなってしまうでしょう?
今日は曇りです。
そして、明日もきっと曇りのまま。
だからあなたは、せめて光の中にいられるように。
【あのこのこと】
私には、周りの悪口ばかり言う友達がいる。友達?本当にそうかはわからないけど、とりあえず一緒にいるだけ、な存在。
あの子はいつも周りを疑っていて、世界中の会話が自分への悪口だと思っている。
自分のした行動はなんとも思わないくせに、周りの行動や発言には妙に敏感で、自分の過去のことを棚に上げて人に指摘してばかり。しかもそれを面と向かって言えないから、裏で人を妬んで、真実も知らないくせに嘲る。たまに私の悪口を言うことも知っている。
あの子にとっては、そんなもんなんだろう。
どうしてこんなにもあの子のことで時間を使っているんだろう、とも思うけど。
【どうしてこの世界は】
最近ずっとそう思っている。
周りからは何かと理不尽なことを言われるし、頑張っても空回りしてうまくいかない。
違うな、頑張ろうとしてないんだな。
頑張ってる気になっているだけで、本当は自分を守ってばかり。出来るだけ悪目立ちしないように無難な行動、発言。
でも結局、前に出ても、後ろで隠れていても、私を恨む人やよく思っていない人は必ずいるようで、何をしてもその人たちから『目ざわり』と思われている気がする。
『別に嫌われてもいいじゃん』って割り切った考えが出来るようになるのはまだ先かな。