過ぎた日を想う
『希望の黄昏』
それは、何年か前に出たアニメ映画のタイトルだ
もっと言うと、レンタルDVDで見たのだ
初めは軽い気持ちだった
パッケージの可愛いかっこいいキャラクター達が目を引いた
昔、少しだけニュースで見たキャラたちだった。
とりあえず最後まで見てみよう
暇つぶしには丁度いいかもしれない
と、再生ボタンを押してみる
その時きっと自分は気づいていない
これから長い長い道のりと苦難がある事に
素晴らしい映画だった
感動的で、今まで見てこなかった事を後悔した
バトルも映像も良かった
何よりキャラクターが魅力的でストーリーも飽きなかった
ここまでは良かった。
しかし、ここで止まらない
すぐにスマホに手を伸ばす
私は他の感想が気になって気になって
仕方がなかった
そのままネットで調べてみる
すると ものの見事に映画の感想が見当たらない
少なくて他の違う情報までヒットしている
何故だ。
数年前の映画だったからか?
そこまで人気じゃなかったから…?
私は必死こいて探してみる
!あった…
ごく短い感想だが、私は少し満足した。
これは貴重だ。スクショしとこう…
なんでもいい。もっと探さねば
気づけばなぜか感想や反応が異常に気になってしまっていた
見つけた!と思ったら下ネタ…暴言…
そんな事もあった
最近、自分は過去をやたら引きずる人間
だという事を薄々自覚していた
一日に何回かは昔のことを思い出す
しかし、まさかここまで重症で
しかもこんな事に執着するようになるとは
平日も休日も隙があれば私は感想をネットで漁った
朝と昼は空き時間にコツコツと
夜は時間を目一杯使ってあらゆる手段を使って探し回った
この映画が出た年にタイムリープしたいと思った
周りの人間と感想を交わし、ネットで当時いたオタク仲間たちと語り合うのだ
そして永遠にその映画の空気を味わって生きていく
そんな妄想をするくらいにはこの映画に囚われていた
SNSを使って探した事もあったが、やはり感想は埋もれているらしい。
まるで見つからない
やけに下ネタが多い
普通にこき下ろされてるパターン
やはりSNSはダメだ
ジメジメして品がない場所はきらいだ
四六時中探す日々が続くが
私はある日こんな事を思う
何故、こんなにあの映画が気になって仕方ないのか
整理してみる
いろいろ思案に耽った結果
自分の今の気持ちを一言で言うなら
寂しい だった
あんなに素晴らしいキャラとストーリーがあるのに
いつか、埋もれゆく
その事実がきっと私の何かを刺激したのだ
しかし、今までの人生を振り返ってみると
埋もれてくものだらけだ
例えば私が小学生のときに、イモムシをわざわざ
道路からどかして救ってやった事なんて私しか知らない
たまたま覚えていたが、忘れてしまったら
その事実は世界から消える、そんな気がする
他の人間が覚えてなくとも
こきおろそうとも
茶化そうとも
私の中で 素晴らしかった という事実だけは
変わらない
せめて自分は覚えていればいい
そんな結論に今日は辿り着いた
疲れ切った脳でなんとなく納得する
よし、解決…寝よう
そして私はベッドの中で考えるのをやめた
星座
うわ!喧嘩してる
僕はびっくりした
帰り道、道路で殴り合ってる男2人がいたから
こんな夜遅くな上に僕はクタクタだった
割って入って仲裁する…?
でも…見てられない…
待った!!!
「誰!?」
見渡しても声の主はいない
ここだよ
「どこだよ。うわ…空から聞こえる」
君さ、喧嘩に割って入ろうとしたよね
よくないよ、絶対痛い目に合うよ
「その前に誰…?もしかして神様?」
違うよ、星座だよ
「星座!?僕に何か用でもあるの!?」
僕はね、生きてる頃に人の喧嘩に首を突っ込んじゃって
巻き添えみたいになってそのまま死んだんだ
だから、止めに来た。君は星座になりたくないだろ
「そうなんだ…でもあの人達まだ殴り合ってるよ。
誰かが止めないと…」
君は無駄に正義感が強いなあ
喧嘩に割って入ったら
破滅しか待ってないって言ってんのに
仕方ない。僕が直々にやってあげよう
星座は地上に干渉しちゃいけないけど…
まぁバレないでしょ
えいっ
どーーーーーんっ!
はるか空から巨大なハサミが隕石のように降ってきて
喧嘩してる2人の辺りをめちゃくちゃにしてしまった
もう仲裁どころじゃない
「や…やりすぎ!これ以上やると人が危ない!」
やばい。加減を間違えたかも…
もしバレたら…
あっ!ヘラさん…こんばんは…
え?うーん…何かの勘違いだと思いますよ
いやいや僕は何もしてませんよ!
えっちょっと待って!
ぼーーーーーーんっっっっ!!!
凄まじい轟音が空に響いて耳がちぎれそうになった
「うわ!うるさっ!あれ?」
空を見上げるとさっきまであった星座が一つ、
消えてるような気がした
踊りませんか?
もう閉館した美術館の中
私の下にポツンと女性が1人いる
貴女はうなだれていて、泣いていた
ある日、私は自分の変な噂を見聞きした
初めて聞いた時は、聞き間違いではないかと思った
魔性の女だ悪魔だ 人を襲う魔女だ
その根も葉もない噂は
誰かの面白半分で生まれたのかもしれない
でも、きっとみんなすぐ忘れる
そう思っていた
けれど日を経るごとに、噂を聞く頻度は増える
内容もどんどん過激なものにエスカレートしていく
私はいつの間にか、好奇の目に晒されるようになった
その中で、私をちゃんと見てくれる人が1人だけいた
私の下でうなだれている貴女がそうだ
噂が流行る前、毎日彼女は顔を合わせにきていた
その度に私をうっとりしたような目で見てくれた
本人は知らないと思うけれど
例え小さな声でも
その温かい言葉は私に聞こえてる
今でもずっと心に残ってる
でも貴女は噂が目立ってきた頃にぱったりと来なくなった
大丈夫かな。何かあったのかな。心配だ。
もしかして私が嫌いになっちゃったのかな
後ろ指を指される日々は終わらないけど
いつか来てくれると信じた
来る日も来る日も待った
そして遂に今日、その日がやってきた
閉館まであと少し、がらんとした時間帯
久しぶりに、貴女に会えた
良かった。元気にしてたならよかった
でも、なんでいきなりいなくなったんだろう
貴女がいない間、ずっと苦しかった
色んな事を考えていると
貴女は全てを吐き出してくれた
悪い噂が頭をよぎってしまって
私の事を考えることも、会いにいくことさえもつらいこと
私を避けるようになった事を悔いていること
へんな噂を流した人間が憎くて仕方ないこと
だれにもこんな事を言えないこと
全て言い終える頃にはぐったりと床にうなだれていた
こんなにも私を思ってくれる人がいる事にびっくりした
けれど、やっぱり変わった人だと思った。
みんな噂に流されて、私を面白おかしく扱うし
時には不幸をもたらすものと陰口を言われる
あの毎日の中で、それが普通なんじゃないかと感じていた
だって私は人間じゃない
ただの作品であり絵だから
そう思ってると、閉館の合図
扉はガタンと閉まったけど、貴女はまだ俯いたまま
私達作品は生きている
閉館の間だけは、私達には自由が与えられる
本当は見せちゃダメかもしれないけど
でも私を愛してくれる貴女には泣いてほしくない
居ても立っても居られないまま
額縁を抜け出した
顔をあげて、私と踊りませんか
巡り会えたら
じゃあね
幼い私の手からシールがびゅんと飛んでいった
窓からは風が強く吹いていた
どんなシールだっけ
ゴリラ、ドラゴン
覚えていない
ただ確かに風の吹き荒れる日に
わざわざ窓を開けてシールを放した
これはぜったいだ
あれから何年経ったんだろう
そしてなんでこんな事を覚えてるんだ
私は窓の外を眺めながら考えた
今でも、あのシールは空を飛んでるのかな
もしかして私に会いたがってるのか
そりゃあ、また巡り会えたら
感慨深いものがあるけど
奇跡をもう一度
ピピっ
私カメラ人間 (録画機能付き)
カメラマンじゃない
全身がカメラで出来てる
積み木みたいに四角いカメラが積み重なって
それが人型になって動いてる、そんな感じ
え?なんで全身がカメラかって?
それは…名残惜しいから
だって例えば祭りが終わった後って悲しいよね
だから
いつでも振り返れるように
思い出せるように
全身のカメラで録画しまくって記録しちゃうの
綺麗な花火もライブの熱狂も
SNSの流れゆくつぶやきも
忘れることって凄く悲しいと思うの
いろんな人の笑顔も熱狂も感動も全部ファイルに収めてたい
あらゆる物事は移り変わっていくんでしょ?
仕方ないのかもしれない、でも許せない
忘れるって恐ろしい
変化って恐ろしい
この感情すらいつかなくなってしまうかもしれない
だから私は一生に一回しかないであろう
素晴らしい瞬間を何度でも味わえる
そんなカメラ人間である事が幸福
録画してしまえばいつでもあの時に戻れる
けど、あの時の瞬間を100回リピートして気づいたの
その奇跡のような瞬間は
人生にたった一回しかないからこそ
輝いて見えるんじゃないかって