NoName

Open App
11/17/2022, 12:56:23 PM

「冬眠って知ってる?」
「カエルとか熊とかのあれでしょ」
「ヒトもできるんだよ」
「布団にくるまって出てこないこと?」
「違くて」
なっちゃんは突然立ち止まり、私の手を引いて歩道の端に寄った。
「本当につらいことがあったら、それは人生の中では冬の時代でしょ?その場合、ヒトも冬眠できるの。1年でも2年でも、10年でも、つらい原因がなくなるまで」
「眠ってたら、原因がなくなったかどうかもわからないじゃん」
「そうだね。だから、あんたが教えてね。もう安心だよって思ったら」
なっちゃんは私の手をきゅっと握ると、歩き出した。その後はたわいもない話ばかりだった。

翌日から、なっちゃんは冬眠した。
前夜いつもどおりにベッドに入り、そのまま朝になっても目を覚まさなかった。誰がよびかけても、どんな医療でも、なっちゃんが戻ってくることはなかった。

「もう安心だよって思ったら教えてね」
ってなっちゃんは言った。
それなのに、私はいまだにそれができないでいる。
だって、なっちゃんが何に悩んでいたのか、何をそんなに辛く思っていたのか、わからないから。

親友だったのに。
なっちゃんは、私がすべてをわかっていると思っていたのかな。なっちゃんのことをちゃんと理解してるって。
ごめん。ごめんね。

何度目かの冬も、ただ謝っている。

11/16/2022, 2:45:50 PM

0歳児のときから一緒にいた幼馴染の男の子。
付き合う友達がかわり、中学の頃から疎遠に。
今はもうどこで何をしているかわからない。

中学時代の大親友。
別の高校に進学後、ダンスに目覚めて海外留学。
今はもうどこで何をしているかわからない。

高校で初めて付き合った、部活の先輩。
大学まで続いたのに、向こうの就活を機にあっさりお別れ。
今はもうどこで何を…。

職場で出会い、いつの間にか旦那になっていた人。
幸せだったのに、結婚後数年で長期の単身赴任に突入。
この人のことだけは、わからなくなりたくない。
今日も電話しよう。
離れていても、いちばん好きだって伝えるために。

11/13/2022, 12:34:20 PM

この年になると、学生時代の友達とはなかなか会えない。
仕事、家族の転勤、Uターン、移住…それぞれの事情で日本全国さらには海外にまで散っている。

寂しいけど、
出張や旅行でどこかを訪ねたとき
ふと「あ、この街のどこかで〇〇が働いてるはずだな」と気づくことがある。
それだけでその土地にちょっと親近感がわいたりして、我ながら単純です。

みんな元気にしてるといいな。
年賀状の「今年こそは会おうね」ってやりとりもだいぶ溜まってきたけど、適当に書いているわけじゃない。
昔のことを思い出したり、あなたたちと会うことを想像しているその一瞬、けっこう幸せだよ私。

11/11/2022, 2:06:25 PM

中学のころ、美術の授業で月を描いた。
私はもともと絵が好きで、
正直周りと比べて出来は良かったと思う。

ある子が、その絵をほしいと言ってくれた。
赤い空に白い月がぽっかりと浮かぶキャンバス。
誰かに絵をプレゼントしたのは、それが最初で最後だ。

数年ののち、彼女が藝大にすすんだと聞いた。
同窓会でちらっと見た彼女は
昔と違い短い髪とラフな服装が印象的だった。

あの日、絵がほしいと言われて、
本当に本当に嬉しかった。
私は何者でもないけど
白い月だけは彼女の翼にのって
遠い空を一緒に渡っていたらいいなと思う。

11/10/2022, 1:33:52 PM

遠出のデートに誘われると
つい「富士サファリパークに行きたい」
と言ってしまう。

動物が好きなんだ?と聞かれるけど、違うのです。
サファリパークにいく途中にある
『自衛隊東富士演習場』が好きなんです…。

だだっぴろく、ゆるやかな起伏の草原。

秋になれば、ススキが視界のすべてを支配する。
風になびく穂が一斉にうなり、光る。
誘い込むように真っ白な渦を巻く。
怖いような高揚するような、ド迫力の光景。
とにかく壮観!


デートで「演習場へ」とは言いづらいけど。
でも、あのススキに一緒に圧倒されてくれるかどうかは、かなり重要な指標だな。

Next