NoName

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「冬眠って知ってる?」
「カエルとか熊とかのあれでしょ」
「ヒトもできるんだよ」
「布団にくるまって出てこないこと?」
「違くて」
なっちゃんは突然立ち止まり、私の手を引いて歩道の端に寄った。
「本当につらいことがあったら、それは人生の中では冬の時代でしょ?その場合、ヒトも冬眠できるの。1年でも2年でも、10年でも、つらい原因がなくなるまで」
「眠ってたら、原因がなくなったかどうかもわからないじゃん」
「そうだね。だから、あんたが教えてね。もう安心だよって思ったら」
なっちゃんは私の手をきゅっと握ると、歩き出した。その後はたわいもない話ばかりだった。

翌日から、なっちゃんは冬眠した。
前夜いつもどおりにベッドに入り、そのまま朝になっても目を覚まさなかった。誰がよびかけても、どんな医療でも、なっちゃんが戻ってくることはなかった。

「もう安心だよって思ったら教えてね」
ってなっちゃんは言った。
それなのに、私はいまだにそれができないでいる。
だって、なっちゃんが何に悩んでいたのか、何をそんなに辛く思っていたのか、わからないから。

親友だったのに。
なっちゃんは、私がすべてをわかっていると思っていたのかな。なっちゃんのことをちゃんと理解してるって。
ごめん。ごめんね。

何度目かの冬も、ただ謝っている。

11/17/2022, 12:56:23 PM