「夜明け前」
今日も家族にバレないように起きて、家を出る。
日はまだ出てないものの、あたりが眩しく感じる。
寝起きだからだろうか。少しあたりをブラブラしながら目的の場所に向かう。
目的地につくと、ハニカムような笑顔をばらまきながら君は私を待っていた。私と君の二人だけの秘密の時間。
私が「感情がない。」っと言ってから始まった不思議な時間。
最近この時間がくると、嬉しくなる。
これが感情?分からない。でも、たしかに私の心の中には、新しい何かができている。それを君に伝えたい。でも言葉にするのは難しい。それでも君に伝えたい。
君は、私の話をしっかり聞いてくれるかな?驚いてくれるかな?不安はあるけど、君に伝えたい。伝えたい。
「あのさっ!」そう言って、私は震えた手をもう一度握り直した。
もうその頃には、日が出ていて、あたりを照らしていた。
8月も終盤にさしかかったある日。君は私に、
「映画一緒に見に行かない?」と誘ってくれた。
私は部活や塾で忙しく、夏休みは誰とも遊ばなかった。
だから君と出かけるのが今年の夏休みの最初で最後のお出かけ。
お気に入りの洋服と、君が好きだと言ってくれた髪型で君に会いに行く。
深呼吸して私は家の扉を開けた。
「いってきまーす!」……………
家にあるすべてのカレンダーに
「9月9日 祖父誕生日」の文字。
もう一度、祖父の作ったミンチが食べたいなぁ。
私の母が作るとものは違って、固くて味が染み込んでいるミンチ。
祖父のお陰で、ミンチが好きになったことを覚えている。
やっぱり祖父がいない世界は耐えられないな。
でも祖父は私が小さい時に言っていた。
「花嫁姿見るまで死ねないなー」って。
だから私は、祖父がいない世界でも生きようと思う。これから先、どんな辛い壁があっても乗り越えようと思う。
あなたが死ぬ前にお話できてよかった。
電話や、手紙をもっと沢山すればよかったと後悔した。部活が忙しくてできなくてごめんね。
空の上で私のこと見ていてね…。
そう言って私は9月のカレンダーを破った。