ナツキとフユト【12 好きな本】
夕飯を食べながら、ナツキが言った
「明日、家に戻る」
「えっ、恋人と仲直りする気になったのか?」
「違う。やっぱり別れる」
「じゃあ…?」
「荷物を取りに」
「ここに持ってくるのか?」
「大丈夫、そんなに多くないよ。もともと転がり込んで居候してただけだし」
「え…」
「でも、どうしても持ってきたいものがあってさ」
「何?」
「高校のとき、フユトがくれた本、覚えてる?」
「あれはお前が勝手に持っていったんだろ」
「そうだっけ?」
「そうだよ」
「あの本大好きだから、手元に置いておきたいんだ」
(つづく)
ナツキとフユト【11 あいまいな空】
上目づかいに見るナツキに、フユトは言った
「別にここにいてもいいけど、恋人と仲直りしなくていいのか?」
「だって…」
「恋人は、お前が好きだからキレたんじゃないのか?」
「そうかなあ…」
「そうだろ? 今ならまだ間に合うぞ」
「でも…」
「なんだ、はっきりしないな」
答えないまま、ナツキは窓の外を見て言った
「今にも降り出しそう…」
(つづく)
ナツキとフユト【10 あじさい】
スマホを見ながらナツキが言った
「フユト、『あじさい』知ってる?」
「そのくらい知ってるよ。そこの公園にも咲いてる」
「花じゃなくて、『味の祭典』。駅前のデパートでやってるフードフェスだよ」
「そ、そうか」
「今度の週末、一緒に行かない?」
「別にいいけど」
「やったー」
「って、それまでここにいる気か?」
「…ダメ?」
(つづく)
ナツキとフユト【9 好き嫌い】
ナツキがベッドに寝転んでスマホを見ていると、フユトから電話がかかってきた
「今から食材を買って帰るけど、ナツキの嫌いなものは?」
「人参とピーマン」
「なんだ、子供みたいだな」
「だって嫌いなんだからしょうがないじゃん」
「じゃあ、好きなものは?」
「フユト、なんちって」
「おい…」
(つづく)
ナツキとフユト【8 街】
ナツキが朝食の後片付けを引き受け、フユトは出勤して行った
ナツキは、マンションの窓から外を覗く
眼下に、朝日に照らされた街並みが広がっている
ぼんやり眺めていると、足早に駅に向かうフユトの姿が見えた
ナツキは、微笑みながらつぶやく
「この景色、好きかも」
(つづく)