裏返し着たTシャツ
すぐ、気がついた
伝えてもいいか迷う距離
もどかしい
「裏返し」
いつまでも捨てられないもの
それは
自分
大丈夫
まだ
大丈夫
「いつまでも捨てられないもの」
月の光に照らされた星々が映る
行ったり来たりを繰り返す度
落ちた星々は爪痕のように線を描き
海は静かに受け入れる
荒々しく
時に大人しく
打ち付ける度に白く泡立ち
夜の闇に己の姿を浮かばせる
微かな匂い、静寂の音
海は私を連れて行く
少しずつ少しずつ
私を真空状態にする
「夜の海」
「あと1つ、それで終わりです」
男は振り返って確認した。
真っ白な地面には、小さな点がいくつも打ってあった。
「思ったよりも小さな点ですね」
そう言われて何だか恥ずかしくなった。
「ははっ」と小さく苦笑いをし、ゆったりと後ろ頭を数回撫でつけた。
「でも、こんなに同じ大きさばかりの点を打ち続けた人は少ないんですよ。ある意味、匠の技です」
声は感心しているようだった。
「はははっ」
さらに照れくさい、思わず足元を見た。
「どうします? もう最後の1点、打ってしまいますか? もう少し休んでからでも構いませんよ」
「そうだな…もう終わらせようかな」
男は口を結び直し、鼻からひと筋の息を吐いた。
息は、すうっと鼻の下に向かった。長年の食いしばりのせいで出っ歯気味になった、やや上向きな口元を滑ると、上昇気流になってどこかに紛れた。
それから右足を上げ、踵をとすん、とおろした。
最後の点を打った。
何の感想も浮かばない。
「お疲れ様。終わったよ」
「お疲れ様でした。ぜひ空の上から見ていてください。うんと高いところからですよ」
男は、しゅるしゅると音を立てながら消えた。
声は手を振るのをやめ、男が付けた黒い点を眺めて目を輝かせた。
「今度はどんな花が咲くのだろうか。楽しみだな。いろんな花が咲くこの世界に、また新たな花が咲く。その花に一体どれだけの人が気づくのか…。気づいてくれるといいな」
声の右手から、柔らかな光が降り注いだ。
黒い種はキラキラと笑った。
「終点」
窓に映ったあなたは誰かになるのでしょうか
雨がつたう窓辺のあなたは
まるで泣いているみたい
ふとあなたが誰かに見える時
そうっと甘えて
ぐうっと甘えて
大丈夫だよ
「誰かのためになるならば」