まるで修行中

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「あと1つ、それで終わりです」
男は振り返って確認した。
真っ白な地面には、小さな点がいくつも打ってあった。
「思ったよりも小さな点ですね」
そう言われて何だか恥ずかしくなった。
「ははっ」と小さく苦笑いをし、ゆったりと後ろ頭を数回撫でつけた。
「でも、こんなに同じ大きさばかりの点を打ち続けた人は少ないんですよ。ある意味、匠の技です」
声は感心しているようだった。
「はははっ」
さらに照れくさい、思わず足元を見た。
「どうします? もう最後の1点、打ってしまいますか? もう少し休んでからでも構いませんよ」
「そうだな…もう終わらせようかな」
男は口を結び直し、鼻からひと筋の息を吐いた。
息は、すうっと鼻の下に向かった。長年の食いしばりのせいで出っ歯気味になった、やや上向きな口元を滑ると、上昇気流になってどこかに紛れた。
それから右足を上げ、踵をとすん、とおろした。
最後の点を打った。
何の感想も浮かばない。
「お疲れ様。終わったよ」
「お疲れ様でした。ぜひ空の上から見ていてください。うんと高いところからですよ」
男は、しゅるしゅると音を立てながら消えた。
声は手を振るのをやめ、男が付けた黒い点を眺めて目を輝かせた。
「今度はどんな花が咲くのだろうか。楽しみだな。いろんな花が咲くこの世界に、また新たな花が咲く。その花に一体どれだけの人が気づくのか…。気づいてくれるといいな」
声の右手から、柔らかな光が降り注いだ。
黒い種はキラキラと笑った。






「終点」

8/10/2023, 3:19:32 PM