早朝の清々しさ
名も知らない小鳥達がささやく
窓を開けると、通り過ぎるそよ風が、薄いカーテンを揺らす
木の葉もさやさやと揺れる
柔らかい日差しが、少しずつ強く、鋭さを持ち始める
遠くを通り過ぎているだろう自動車が発する音
昨日よりも多く聞こえる蛙の声
その他、いくつもの知らない音
1人そこに立ち止まり、ぼうっと心を閉じれば、まるで、真夜中の中に浮かんでいるようだ
静かに眠る
愛があれば何でもできる、
わけではなく、
何かがいつもよりできそうな気がする、
な気がする
その女は、ほぼ毎日、今までの人生の選択を後悔していた。
どうして結婚したのだろうか。
いや、どうしてあの時に離婚しなかったのだろうか。
辛くて悲しくて寂しくて。
彼女は、自分の恋心を、幸せを、自分の自尊心を、諦めきれないのだ。
もはや、自分への自信は打ち砕かれ、この悪い状況の原因は自分なのだ、と。
そんな待遇を受け、そう言われても諦めきれなかったのだ。
ほんの小さな喜びを、欠片を、見つけようとしていた。
外へ飛び出したくても、受け入れてもらえないのではという恐怖心が、彼女を閉じ込めていた。
それではいけないのだ、と、わかっていても。
まるで、言い訳をして怠けているような罪悪感でいっぱいになっても。
それでますます自分を嫌いになっても。
生きる気力を失っても。
そのうち、後悔の中に溺れて生きるのも面白いのかもしれない、と思うようになった。
後悔すらも感じない、何も感じない、そんなふうになるのも悪くない、と思うようにもなった。
「私が知っているのはここまでです」
その女は、外していた眼鏡を、再びかけてからこう言った。
カラリとした空気の、天気の良い昼間だった。
床に座っている女の横には、その女の夫や、子供と思われる人間が横たわっていた。
腹の上にタオルケットをかけ、揺れるカーテンが送る風に当たって、気持ちよさそうに昼寝をしているように見える。
「報告は以上です」
女の目は、一瞬だけ、きらりと輝いた。
そうして、一日が過ぎた。
外を歩いていたら、突然、
どこかから呼ばれた気がしたので、とりあえず後ろを振り返ってみた。
誰もいなかった。
気にしないようにして、また歩いていたら、突然、
今度は誰かに肩を叩かれたような気がした。
でも、誰もいなかった。
きっと疲れているに違いない、と思い、ポケットの中に入れておいた、とっておきの風のくしゃくしゃを取り出した。
手のひらに乗せたまま、ふうっ、と、ため息まじりの息を吹きかけた。
風のくしゃくしゃは元の姿に、大人の虎が寝転がっているくらいの大きさの姿に戻った。
急に捕まって、急に戻されて、くしゃくしゃは気に入らなかったに違いない。
いくら誰かにもらったのだから自分が捕まえたわけではない、と言っても怒ったままだ。
実際、経緯はどうであれ、ずっと持ち歩いているのは自分なのだが。
期待半分でくしゃくしゃに話しかけた。
「どこへでも行けばいい。好きなところへ」
突然、くしゃくしゃに包まれた。
あっという間に、地面が薄くぼやけて見えるくらいの高さまで上がっていた。
そうっと目を閉じた。
次に目を覚ますのが楽しみだ。
風のくしゃくしゃは、もう、くしゃくしゃではない。
きっと、これからどこまでも、どこまでも、飛んでいくに違いない。
考えたいことだけを考え、
食べたい時に食べたい物を食べ、
空を見たければ空を、
窓を開けたければ窓を開け、
それらの反対も思うがままに、
思うことも思わないことも、
思いつきのままに過ごしてみたい