まるで修行中

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外を歩いていたら、突然、
どこかから呼ばれた気がしたので、とりあえず後ろを振り返ってみた。
誰もいなかった。
気にしないようにして、また歩いていたら、突然、
今度は誰かに肩を叩かれたような気がした。
でも、誰もいなかった。
きっと疲れているに違いない、と思い、ポケットの中に入れておいた、とっておきの風のくしゃくしゃを取り出した。
手のひらに乗せたまま、ふうっ、と、ため息まじりの息を吹きかけた。
風のくしゃくしゃは元の姿に、大人の虎が寝転がっているくらいの大きさの姿に戻った。
急に捕まって、急に戻されて、くしゃくしゃは気に入らなかったに違いない。
いくら誰かにもらったのだから自分が捕まえたわけではない、と言っても怒ったままだ。
実際、経緯はどうであれ、ずっと持ち歩いているのは自分なのだが。
期待半分でくしゃくしゃに話しかけた。
「どこへでも行けばいい。好きなところへ」
突然、くしゃくしゃに包まれた。
あっという間に、地面が薄くぼやけて見えるくらいの高さまで上がっていた。
そうっと目を閉じた。
次に目を覚ますのが楽しみだ。
風のくしゃくしゃは、もう、くしゃくしゃではない。
きっと、これからどこまでも、どこまでも、飛んでいくに違いない。

5/14/2023, 4:48:39 PM