「秘密の決まり事」
今日も彼女の横顔を見つめる。今年、はじめて同じクラスになった彼女の性格も、容姿も全てが好きになってしまった。
一緒に帰る約束をしたいのにそれすらできない。
叶わない恋だから、せめて卒業まで友達としていたい。
…友達じゃない関係になれたらな。
彼女が他の友達と微笑んでるのを見ると少しだけ嫉妬しそうになるけど、悟られないように薄く笑う。
つまらない授業を聞き流して外を眺める。
教室の窓の外は、夏の始めの青い空が咲いている。
「「今日もばれませんように」」
彼女が窓の外を眺める私を見ていたことに気付くことはなかった。
その後、2人が一緒に帰ってるのを見た事は内緒の話。
美しい深い海にゆっくり体が沈んでゆく。色とりどりの魚が通りすぎて水面からの光がさす。海にいるはずなのに不思議と苦しくない…
ゆっくりと意識が浮上するなかそれが夢だと気付いた。
あのまま、私の時計の針を止めてほしかった。
そんなこと、できるわけが無いんだけど寝る前にいつも少し期待をしてしまう。
今日の天気は晴れだそうだ。私の心とは正反対の天気。また、1日が始まることに安堵と失望を少し感じながら透明な水槽を横目に身支度を始めることにした。
私が、音楽を始めたのは間違いだった。ただ、誰かを支えれるような音楽を作りたかっただけなのに。
どれだけ評価を貰うより、「この曲に救われた」という一言のコメントの方が心を温かくしてくれた。
なのに…。私は大切な人を救えなかった。いつも、一番近くにいたはずなのに気付けなかった。
身近な人さえ救えない音楽に価値があるのかと思って、パソコンにある曲のデータを消そうとすると、1つのメッセージが届いていた。開けてみると、
「貴方の音楽に、いつも救われてたよ。ありがとう。」
短いメッセージだけでも一目で誰から来たかわかった。最期まで君に救われてばっかりだ。
頬に伝った温かい雨に気付かないふりをしてパソコンを閉じた。
透明な雫が窓を伝う。今日はあいにくの雨だ。
多くの人は雨を嫌うかもしれないけど、私は雨が好きだ。
君と雨の中、窓を覗くと小さな箱庭で2人きりの世界になった気がするから。
2人きりの世界で今日は何をしようか。
隣を見ると微睡む君がいてもう一度幸せな夢をみることにしようかな。
もう一度窓を見ると淡い虹がかかっているのが見えた。
愛しい君に「「おやすみ」」
学校帰り、空をふと見上げると快晴だった。
また、君がいない夏を一歩進む。
昔にお揃いで買ったヘアピンは今では輝きを失ってすっかり黒ずんでしまった。
私の心みたいだなと髪につけていたヘアピンに触れる。
君が見せてくれた世界はどんなこともキラキラして見えた。
君がいない実感は、何年たってもわかない。
「「あなたがいない世界なんて何もいらない」」
_どこかで君もそう呟いた気がした。