私の旅には
電車が似合う。
流れゆく景色を眺める。
本を読む。
ドヴォルザークのユーモレスクを聞く。
もしかしたら、猫が乗ってくるかもしれない。
ねえ、そこの列車。
私の旅に付き合ってよ。
私を遠くの街へ連れて行ってよ。
見たことのない景色を見せてよ。
たまには
私のひとりごとだって聞いてほしい。
「あそこの畑では、何を育てているんだろう」
毎日そばを走っているから、
あなたならきっと知っているでしょう。
「花が綺麗だよ」
「あの河川敷、散歩したいな」
気まぐれで応えてくれないかな。
今日も
列車に乗って旅する人が
いるのでしょう。
いつか私も
そのひとりになりたいの。
「列車に乗って」
いつか
時間と余裕があるときに
叶えたい夢がある。
ひとり旅に出るの。
徒歩。自転車。バス。飛行機。
移動手段はいくつもあるけど
私はきっと、電車を選ぶでしょう。
青春18きっぷを買って
新幹線ではなく在来線で
たまに、途中下車して
お土産とか買って
乗り込む人々の
方言の変化とか見つけて
車窓から
流れる景色を眺める。
目的地があってもなくても
遠くの街へ行くの。
「遠くの街へ」
もし
この現実から逃げられるのなら。
海を望む小高い丘の上に、家を建てよう。
猫を飼おう。
大好きな人を家に招こう。
料理の練習をしよう。
本を読もう。
窓から海を眺めよう。
朝と夕方に散歩しよう。
毎日早寝早起きして、丁寧な暮らしをしよう。
そして
たまに旅に出るの。
行きたい場所が、たくさんあるから。
その場所で見たい景色があるから。
食べたいものがあるから。
会いたい人が、いるから。
大好きな場所を増やしていくの。
それが私の現実逃避で
夢でもある。
いつか、叶いますように。
そんな未来が来ますように。
「現実逃避」
君は今
どこにいるの
何を考えているの
君がいる
町の名を目にする度
そう思ってしまうの。
さすが日本の古都とでもいいますか。
よくよくその名を目にするから。
新幹線で2時間
約400kmの道のり
近そうで遠い距離。
私たちには遠すぎた距離。
いつかまた
会いに行ってもいいかな。
いつかまた
こっちに帰っておいでよ。
そして
君の"今"を教えてよ。
「君は今」
どうしたの。
今日はなんだか
悲しそうね。
今にも泣き出しそうね。
小さい頃は
今より背が低くて
遠かったはずなんだけど、
育った町では
君が広くに見えて
今より、近くにあるように感じていたよ。
大人になって
背も伸びて
近くなったはずなんだけど、
立ち並ぶビルの隙間からは
君があまり見えないんだ。
どんなに高い建物の最上階に行こうとも
ますます遠ざかっていくみたい。
遠くなってしまったの。
手を伸ばしても届かなそうで
撫でてあげられそうにない。
ごめんね。
だからずっとそんな顔をしていないで
悲しい時は泣いて教えて
いつか、笑って
透き通るような青色を見せてほしい。
「物憂げな空」