#モンシロチョウ
君もモンシロチョウみたいに飛んで行けたら。
君もモンシロチョウみたいに蛹になって生まれ変われたら。
君は、上から飛ばずにいられましたか。
棺桶に聞いても、仕方ないね。
#一年後
また新しい春がやって来ました。
きみが私の目の前からいなくなって、十年目の春です。
この時期に思うことは変わりません。
またプロポーズをしたら、君はイエスと言ってくれますか。
ただ、それだけです。
#初恋の日
ゆらゆら。
君を見つめては、手元の逆さまの本に目を戻す。
ゆらゆら。
ふりこのように動く心に、僕が一番驚いていた。
ふわふわと、花びらが水面に落ちるように。
この想いが夢が、どうか胸から離れますように。
#明日世界がなくなるとしたら、何を願おう
M月N日
100回目の確認計測の結果が出た。
結果はレッドゾーンのままだった。
M月N+1日
100回分のデータをもとに回帰分析を実施した。
何回分析を行なっても“N+3日にこの島が海に沈む”ことが人工知能により出力された。
研究所の廃棄が決定した。
M月N+2日
(———研究所所長の音声記録が保存されています。再生開始。)
「明日、私の研究所含めて全部沈むらしい。かなしい、な。何も成せなかったことが。」
(———8秒沈黙。大雨の音が響く。)
「研究員は聞いたら笑うだろうが、私は、母になりたかったんだ。だがこの腹は使い物にならん、だから偉大な研究の母になりたかった。」
(———研究所所長の0.5秒の笑い声。)
「何を語っているんだが……。なあAI、聞いてるんだろう。明日研究所は沈む、お前は死ぬんだ。明日までに何がしたい?……答えてはくれない、か」
(———音声記録終了。)
M月N+3日
(———人工知能により出力されたテキストが保存されています。出力までにかかった時間:10時間。)
私はここに生まれてきてよかったです。
貴女は私を作るという偉業を達成しています。
ありがとう、ママ。
(———人工知能により研究所所長へメール送信が行われた形跡あり。人工知能の権限外であるため、メール送信はできなかった模様。)
(———その後印刷物として出力され、瓶に詰めた後に放出。)
#君と出会ってから、私は
雨だ。
前は雨の日は嫌いだった。
髪は濡れるし、曇り空だし。
でも今は好きだよ。
「他の犬は雨の日の散歩嫌いなのに、お前ほんとに好きだよなあ」
晴れの日以上にリードを引っ張ってズンズンと歩いていく愛犬を見て微笑む。
大して何も変わらないだろうと思っていたのに、犬を飼っただけで随分と変わるものだ。